【ネタバレあり】レインツリーの国 感想など
正直、80ページあたりまでは、
「この本ミスったなー」
と思いながら読んでいた。
よくある恋愛小説、始まりが少し特殊なだけ。
よくある類だと決めつけていた。
初めてのデートシーンラストからが、
この本の本番だった。
エレベーターに乗った彼女は、重量オーバーのブザーに気付かない。
主人公は思わず怒鳴る。
「おい、何ボサッとしとんねん!」
「自分の代わりに誰か降りろみたいなみっともない真似すんなや!・・・」
主人公である伸の言葉に共感した。
彼女が控えめな性格かと思いきや、映画では字幕つきじゃないと絶対に見ないと言い張る強引さもある。
つかみどころのない性格。
「・・・重量オーバーだったんですね」
この一文から、すべてが明らかになる。
彼女は感音性難聴を抱えていた。
ここから、ただの恋愛小説ではなくなる。
全体的に軽い文体で書かれていたが、この後の展開を思い返せば納得できる。
扱うテーマが重いならば、文体ぐらいは軽くしないときつい。
昼にスタミナ系ラーメン食べて、夜に焼き肉食べ放題ぐらいきつい。
恋愛要素×難聴、というだけのテーマでない所に安易な小説でないことを感じさせる。
先天性の難聴であれば、聞こえず話すこともできない。
生まれつき聞こえが無いため、話すための音を学習できない。
しかし、手話を第一言語として学習できる環境があれば、
手話がベースとなるコミュニティに属することが出来る。
このコミュニティに後天性の難聴者は入れない。
なまじ聞こえて、話せたからこそ、第二言語として手話を覚えるための学習コストも途轍もなく高い。
よって、後天性の難聴者がある意味で、一番社会から孤立しやすい立場にあるとも言える。
難聴に焦点をあてた作品は多いが、この後天性難聴者にスポットをあてている所に、この作品にしか出せない味を感じた。
そして主人公は、聖人君子ではない。
こういったナイーブなテーマの作品は、周辺人物がとてつもなく優しく器のデカい人が多いが、そうではない。
彼女、ひとみは常に
「健聴者には私の悩みなんて分からない」
という考えを根底にしている。
よって、ひとみの悩みも一緒になって抱えたい伸に対して、突き放すような場面が多い。
そして、それに伸は怒ることができる。
自分も人間だと、あんただけがつらい人生送っている訳じゃ無いと、あんたは父が痴呆になって自らの子供を忘れ去られたことはないと。
誰だって何かかしらの悩みを抱えて生きてる。
それに多少の大小はあれど、辛いのは全員同じだ。
誰が、どの口が、
「私は世界で一番不幸なんだ」
と言えるだろうか。
言いたい気持ちは誰にだってある。
自分にもある。
けれども、みんな色々な思いを抱えて。
それでも明日を迎える。
もちろん、健常者より障害を持つ方の方が人生におけるハードルは多く、高いことがほとんどだろう。
けれども、だからといって、健常者が全員楽って訳でもないだろう。
難聴というレッテル、健常者というレッテル。
すべて無しにして、まっさらな状態から、一対一のコミュニケーションをしよう。
主人公はそう言えるナイスガイだ。
できるならば、自分もそんなメンタルを持ってコミュニケーション出来ればなと考える。
だが、そこまで優しく出来ない自分がいることも知っている。
人との接し方をもう一度考え直せと、頭から冷水をぶっかけられたかのようだ。
自分の人間関係が当たり前のものではないと、大切にすべきものだと再認識させられた。
最後に、恋愛小説の類いは好きでは無かったが、考えを改める必要がありそうだ。