【エッセイ】夫の恋人
このところ、夫が会社の昼休みにそっとあの人と逢瀬を重ねていることを知っている。
私のリサーチでは確実に週3ペースで会いに行っている。
だって、逢瀬のあとのあなたは顔がぴかぴかと光ってご機嫌だもの。
「すごくない? 500円で唐揚げと、メンチのセットが食べれるんだよ? 違うセットでカニクリームコロッケも食べれるし良くない? 」
定食屋の話である。
夫が務める会社の近くにできたのだと言う。
やり込み系のゲームが好きな夫は、一度好きになるとずっとハマり続ける習性がある。
マージャンゲームしかり、ジョジョのアプリしかり、レッドブルしかり。
夫はスマホの画面を見ながらこのクソ運営が!と暴言を吐く。しかし指の動きはやまない。
「そんなくそ女、さっさと別れちゃいなよ」
と言って横から人差し指をひらひらさせて
「アンインストール、しよっか?」
とニヤニヤしても頑として首を縦に振らない。
夫は昼休みに唐揚げを週3で食べることを知っているから、必然的に私は家で揚げ物全般を作りづらい。とっても作りづらい。
だから揚げ物が食べたくなったら昼にやよい軒とかで食べたりする。
これ、何か変じゃないか。
お店と家の唐揚げって違うから、家で作って貰っても全然構わないよと夫には言われるけど、なんとなく作りづらい。(彼のコレステロール的な数値も気になる。)
揚げ物に関しては夫が熱を入れてるお店が本妻みたいな感じがする。
私、愛人みたい。
そこまで愛している人(唐揚げ店)って、どんな人(唐揚げ店)なんだろう。
あなたにはカリカリにもジューシーにも揚げるテクニックあるの?
誰よりも熱い温度で食べさせて上げられる?
余った唐揚げを翌日酢鶏にリメイクできる包容力は持っているかな?
でもいい、私、愛人だから2番目でいい。
一歩下がった月みたいな存在でいい。
その方が気楽だし。
変な設定に入り込む私の横で、
昼食べた唐揚げの素晴らしさをうっとりした表情で語る夫。もう、あんたそれ恋だよ。
そうだ、と言ってから
「アリサも今度一緒に食べに行こうよ」
と言う。え? 愛人を本妻に合わせる気?正気?
「…わーい、じゃあ今度連れてって! 」
つまんない愛人ごっこなんてやめやめ。
早く美味しい唐揚げを食べたい〜!
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