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短歌

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2018年6月の記事一覧

「みずからの火」を読む

「みずからの火」を読む

作者にとって、第二歌集から四年目になる歌集である。
帯に「緊密で美しいことばたち」とある。ハードカバーであるが歌集のサイズがコンパクトである。鮮やかな赤色の装丁がシンプルで目を惹く。また、歌集を開くと、一ページに一首という贅沢なレイアウトになっている。

あとがきに
「ここ数年、現代詩をよく読んだ。いくつかの試みもした。上手くいったもの、そうでないもの。そもそも上手くいくという事はどういうこと

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解体治療

この街のはずれ糜爛のうつくしく桜はいつも川辺に咲いて
濡れたまま肉に貼りつく銀紙のうえを味覚のない風は吹く
名前のない肉体になるまで刻むあたかいだろうなあ、今夜は
退化した鰭の感触こそばゆい黒髪はしおを噴き出す深さ
撓められいのちへ届く針先が太平洋の埠頭に変わる
#短歌

厭離庵レポート

昨年から企画を温めてきた「厭離庵(小倉山荘跡)ポエトリーリーディング 詩歌と音 時空を超えて」を6月10日(日)終了することができた。

厭離庵は、鎌倉時代の公家、藤原定家の山荘跡と伝えられ、定家が小倉百人一首を編さんした処としても知られている。そう、歌人にとってここは特別な場所なのである。

小倉山しくれの頃の朝な朝な昨日はうすき四方の紅葉葉

定家が秋を詠んだ歌である。

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「水中翼船炎上中」を読む

誰もが過ごした、去年の長期休暇、あるいは夏休みを、くちゃくちゃってかき混ぜて、頭から透明なレジ袋を被ったまま下から覗いた日本に暮らす。液体でもない固体でもない、丁度中間のゲル状の心情から滲み出てくる言葉、そんな印象を持った。
液体は流れてしまって形を持たない、固体は形を持つけれども動くことは難しい。言葉は震えながら動こうとする。おそらく作中主体の心情がゲル状の感性を抱えているのだろう。
難しい言葉

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