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わたしの本棚116夜~「知的ヒントの見つけ方」

 立花隆氏が亡くなってから、追悼特集がテレビやネット、雑誌、本などのメデイアであり、近くの本屋さんや図書館も追悼コーナーが設けられています。そんなか、手に取った1冊です。文藝春秋の巻頭を飾った随筆(2014年8月号から2017年12月号)、特集記事と別のメデイアに頼まれて話をした記事をまとめた構成になっていました。

☆知的ヒントの見つけ方 立花隆著 文藝春秋 文春新書 920円+税

 「知の巨人」と称され、多岐にわたる立花隆氏の書かれた随筆を、5つの分野と特別講義に分類してあるので、とても読みやすかったです。

1.生と死に学ぶ

 2007年に膀胱がんの手術を受けてから7年後、立花氏は再発の恐れから検査したこと。当時、がん患者であるだけでなく、各種成人病の患者でもあり、毎日10錠以上の薬を飲んでいるという日常がつづられます。死後の世界への関心は、脳死問題、霊媒的な存在であるイタコのこと、武満徹没後20年での感傷などへと広がって、綴られます。この章に、ニュートリノ研究の戸塚洋二氏のことを書いた随筆(2015年12月号)が入っているのは興味深いです。

 宇宙線の研究が、物理学を学ぶことが、「宇宙や万物は、何もないところから生成し、そして、いずれは消滅、死を迎える。遠い未来の話だが、『自分の命が消滅した後でも世界は何事でもなく進んでいく』が決してそれが永遠に続くことはない」という、末期癌で死を予測していた戸塚氏のブログの文章を引用されているのは、生と死と宇宙への夢の広がりを感じました。

2.歴史と語らう

 歪められた敗戦の歴史、では、日本は都合が悪いことは歴史書に残さないというのを興味深く読みました。白村江の戦いでは惨敗したのに、『釈日本紀』によると、鎌倉時代に書かれた貴族たちの勉強会では、唐軍と衝突して敗北を喫するいちばん要の部分を、「之を読むべからず」とあるそうです。この姿勢は、今日まで続いているようです。日本の天皇制の限界へも踏み込んでおられました。

 一方で、NHKの大河ドラマ「真田丸」やブラタモリの「大阪城・真田丸スペシャル」の影響で、千姫の嫁ぎ先の小話なども書かれており、博識ぶりにはびっくりします。「ガルガンチュア立花」という名前のバーを、新宿で営んでいた経緯も書かれていました(還元子さまのnoteでも読みました)

3.科学を究める

 熊本地震や御嶽山の噴火などの時事から、火山や地震、海底、恐竜といった地学分野のエッセイが主であり、専門的な科学の知識なくとも読めます。リチウムイオンの話もかなり詳しくあります。この数年後(2019年)には、立花氏が注目していた吉野彰氏が、リチウムイオン電池の研究で、ノーベル化学賞受賞の嬉しいニュースになりました。先見の目であったわけで、感心しました。

4.戦争から考える

 日本の加害者責任へも踏み込んでおられ、シベリア抑留体験のある香月泰男さんの著書『私のシベリア』で提起した「赤い屍体と黒い屍体」の随筆は心にひっかかりました。終戦直後に現地人の恨みを買って殺され、生皮をはがされた日本人の赤い屍体、広島の原爆投下による黒い屍体。立花氏はワークショップで、このふたつの屍体を現代の若者たちと考え、議論したそうです。そして、そこで、「ゆとり教育」世代の学生たちは、知識量は確かに乏しいけれど、自己表現力の高さを評価されていました。

5.政治と対峙する

 甘利大臣の賄賂事件、森友学園事件、金正男暗殺事件などの時事ネタが多く語られており、今更ながら、わたしは事件の裏側を知ることになりました。残念ながら、「田中角栄研究」を読んでおらず、政治のことは知らないこと多いのですが、わかりやすく書いてくれいます。小池百合子さんに関しては、自民党の長老たちよりずっと巧みに政治の流れを読む人であり、今後も、そのような政治家として独自の政治勢力を抱え日本の政治を面白くしていく人だろう、と記されていました。

6.特別講義 未来を描く

 人口学で言う「機会の窓」の中で、注目すべき国は、イランというのには、正直、驚きました。イランの潜在的活力の高さに注目されていました。また、日本の科学技術の高さは、素材の世界シエア獲得率にあり、炭素繊維にいたっては、東レ、帝人、三菱レーヨンの三社が世界の七割を占めている現状を高く評価されていました。ips細胞が創薬の研究に改革を起こしたこと、核廃棄物の問題などに言及されていきます。若者たちには、世界へ向こうことを呼びかけ、あとがきの最後に、状況の見方としては、楽観主義をススメてもいます。

 あまりの博覧強記ぶりにどう読めばよいのかな、どこからとっかかればよいのかしら、と思いましたが、この本は、随筆をテーマごとに分類してくれており、テーマが明確に提示され、非常に読みやすかったです。少しづつ、分野こどの専門になる書籍も読んでいきたいです。最後になりましたが、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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