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「ドライブ・マイ・カー」を観て

 2021年カンヌ映画祭で最優秀脚本賞他2賞を受賞した濱口竜介監督の作品です。3時間という上映時間の長さが気にならない、洞察の深い素敵な作品でした。(画像はeiga.comさんより借りました)


 映画を観てから、村上春樹氏の原作を読みましたが、3っつの短編を土台に主人公家福という男性、妻の死、みさきというドライバーの設定を非常にふくらませた内容に変更させており、また、劇中で上映される「ワーニャ伯父さん」が多言語劇に変わるなど、多様性を求める今の世界に馴染んでいました。舞台を東京から広島に変えたのも、映像では瀬戸内海岸線のドライブシーンなど美しく、成功していると思いました。

1.登場人物

 主人公 家福 西島秀俊 

 運転手 みさき 三浦透子

 家福の妻 音 霧島れいか

 妻の浮気相手 高槻 岡田将生

どの方も熱演でしたが、とりわけ運転手役の三浦透子さんは素晴らしかったです。原作では、ぶさいくでぶっきらぼう、とありましたが、可愛らしい方で、サントリーのCM二代目なっちゃんでした。

2.原作

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★「女のいない男たち」村上春樹著 文藝春秋 1574円+税

「女のいない男たち」に収められている6編の短編から、「ドライブ・マイ・カー」「木野」「ジェラザード」を土台に物語を構築。主人公家福は、本では俳優ですが映画では演出家に、妻の死も本では子宮癌であり映画ではくも膜下出血での急死に変更。また、愛車のサーブ900も黄色から映画では赤になっており、舞台も本では東京ですが、映画では多言語の映画祭のために広島を訪れており、本では事務所の雇用運転手のみさきが映画では映画祭の期間だけの運転手になっています。

3.劇中劇


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劇中劇 ワーニャ伯父さん チエーホフ 神西清(訳)新潮文庫 430円+税

 わたしはこの映画のテーマが再生だと思いました。劇中劇で繰り広げられる「ワーニャ伯父さん」の有名なラストシーン、「でも、仕方がないわ、生きていかなければ!」というソーニヤのセリフが胸に響きます。本では器量が悪いソーニヤですが、映画では、きれいな韓国の女優さんが手話で表現されます。セレブリヤコーフの理不尽な仕打ちもあり、苦しくとも楽しいことがなくともそれでも人生は生きていかなくてはならない、自殺することも許されないワーニャ伯父さん。それは、家福やみさきにもあてはまり、妻の死や母の死の原因で自分を責め、苦しんでいた彼らの姿と重なりました。

 映画では多言語による演劇、言葉を介して言葉なしでも通じあえる設定に、今の多様化社会を感じました。韓国、中国の方、手話の方での演劇、稽古中、ソー二ヤと新しいお母さんのエレーナが手話の韓国語を介して対話するところ、ふたりの間に何かが起こったのを感じさせました。

4.広島が舞台

 原作と違って、映画は広島を舞台にしているのですが、美しい海岸線のドライブ・シーンとともに、印象に残っているは、家福とみさきのセリフで、ゴミ処理場の延長線上に広島の原爆ドーム、平和公園があるというところです。家福はみさきに頼んで、きみが広島で一番好きなところに連れていってくれ、といいます。みさきは、ゴミ処理場にいきます。雪のように舞う粉々に再生されたゴミをみてのセリフでした。原作にはなく、映画オリジナルですが、生と死、再生など考えさせられました。

#映画感想文 #ドライブマイカー #濱口竜介 #海外文学のススメ

#村上春樹 #女のいない男たち #ワーニャ伯父さん #チェ―ホフ

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