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短編小説

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なにかしらになることへの希求、そして人間。(2013.6.20)

図書館2階の、いつも湿り気のある小さな小窓の脇の席。そこが彼女の指定席。誰も何にも言わないけれど、そこが彼女の指定席であることはみんなが知っている。そこに、使い古した革の鞄と、オレンジ色の布製のサブバッグ以外の荷物が置かれることはない。

彼女はまた座ってる。ちょっとカビくさい小窓、窓の外は雨が降ってる。湿り気が本のにおいを連れてくる。むわんむわんと吸い込んで、息をとめて、吐き出す。圧倒的な存在感

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桃歌ちゃん

 気が付いたら桃ちゃん、と呼んでいたので、それが一般に言うところの「叔母」であるということは、随分と後になってから知った。母は「桃歌」と呼ぶ。「桃歌はああいう子だから」が口癖だった。桃ちゃんは母の妹で、なんだか変な人だった。でもわたしは幼いころから遊んでもらっていたから、何かおかしいみたいなことはあまり意識したことがなかった。「お姉ちゃんはあたしのことを馬鹿にしてるのよ」が桃ちゃんの口癖だった。確

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