事業創出の原理原則13 戦略の立案 – ギャップ分析②

「自社分析」の章は、「事業の拡大や展開」をどのように考えていくかを主眼にマーケティングをしました。最も参考にしたのは、フリップ・コトラー氏のマーケティング理論です。「戦略の立案」の章で、最も参考にしたのは、USJを倒産の危機から立て直した、元USJのCMO(チーフマーケティングオフィサー)、現株式会社刀のCEOの森岡毅(つよし)氏です。「USJ」や「西武遊園地」のプロジェクトがテレビ番組で取り上げられて、興味を持ちました。凄いコンサルタントだと思います。「日本最強のマーケッター」と言われています。森岡氏を有名にしたのは、USJの立て直しの実績です。USJは、2001年の創業時の年間入場者数の1,100万人を最高として年々減少して、森岡氏がUSJに入社時の2010年には、約730万人になりました。経営危機の中に入社し、それを、退任した2016年には、過去最高の、約1,500万人にまで増加させました。年間の売り上げが、700億円の時に、450億円の設備予算を計画して、2014年にハリーポッター・エリアを作りました。
私が教わってきた、マーケッティングとは違うと感じました。マーケッティングの基本は「問題解決」です。例えば、遊園地の問題が「設備が古い。」であれば、解決策は、「設備を新しくする。」になります。例えば、「食べ物チェーン店」の売り上げが落ちて、経費が増えてきたのであれば、経費を減らすため「セントラルキッチンにして経費を減らす。機械化して人件費を圧縮する。」と考えるのが、一般的なマーケッティングの考え方です。しかし、森岡氏は、そうしたマーケッティングの常識的手法とは全く違いました。
 
・ギャップ分析からの目標の設定 : 森岡氏は、「問題の設定のためには、まず、目標の設定が必要である。」と言っています。「問題・課題」と「目標」を設定するために、「ギャプ分析」を行います。手順は次のようになります。①「ありたい姿(To be)」を明確にする。どうありたいか?どうなりたいか?を具体的にする。②「現状の姿(As is)」「現状予想される姿」を明確にする。③「ありたい姿(To be)」と「現状の姿(As is)」との差(ギャップ)を明確にする。④ギャップから、何がギャップを発生させているか問題点を明確にする。④Purpose(目標・目的)を、具体的にどういう状況「ありたい姿(To be)」にしたいか?を、明確にする。すべてのプロセスは、チーム活動であるなら、チーム全員の意見を聞いて、認識を統一させます。①で目指している状況を、②で実際の状況を、③でギャップの具体的な内容を、④でギャップの発生原因の問題点を、⑤で目標・目的を、ハッキリさせます。日本には「察する文化」があります。細かいことを説明しなくても、お互いに理解できると考えてしまいますが、実際に確認作業をしてみると、違うことを考えていることは往々にあります。①②③④⑤のステップの内容は、チームの認識を統一するためにも、時間がかかっても、じっくり話し合った方が良いと思います。
 ・森岡氏が、実施したプロジェクトの1つに「西武園ゆうえんち」の再生プロジェクトがあります。私は、東京で生まれ、ほとんどの人生を「東京」に住んでいますが、「西武遊園地」には、1回も行ったことが有りません。「西武園ゆうえんち」は埼玉県との所沢の先の「西武遊園地駅」にあり、交通機関は池袋から「西武鉄道」で行くか、西武新宿から「西武新宿線」で行くしかありませんでした。私とは、「豊島園遊園地」に行ったことはありますが、「西武園ゆうえんち」は存在すら意識にない、訪問する選択肢にならない遊園地です。たぶん、東京近郊在住の人にとっては、最も縁のない遊園地です。まず、その状況を分析するために、簡単な「ギャプ分析」でしてみました。「西武園ゆうえんち」の。①「ありたい姿(To be)」は、「過去最も多かった来場者数、1988年の200万人」です。②「現状の姿(As is)」は、「2019年の来場者数は、38万人」です。廃園レベルの来場者数だと思われます。③「ギャップ(問題点)」は、「来場者数が年々減少傾向。最も多い入場者と比較すると約マイナス160万人。老朽化した施設や多様化した余暇の過ごし方、変わりつつある消費者ニーズをキャッチアップできていない。」が考えられます。④「Purpose(目標・目的)」は、「2020年に70周年を迎えることから、記念事業としてリニューアル。再生を目指す。」ことが計画されました。私は、「西武遊園地」のことが少しは理解できるので、かなり厳しい状況なのは想像できます。
 私が過去に関わった「新規事業のプロジェクト」の、①「ありたい姿(To be)」は、「もの(商品)」中心の販売からの脱却。こと(サービス)事業の売り上げを拡大。ITソリューションメーカーへの転換」がありました。②「現状の姿(As is)」は、「売上の大半がプリント関係の売り上げ」です。③「ギャップ(問題点)」は、「ものの販売の1本足打法。時代の変化への対応遅れ。事業基盤の脆弱化の恐れ。」と考えました。④「Purpose(目標・目的)」は、「サービス事業を立ち上げて事業基盤の強化を目指す。プリント事業以外の事業を拡大し、さらに現状ビジネスとのシナジィ効果も生み出す」ことを計画しました。
 この「ギャプ分析」の手法は、マーケッティングだけでなく、営業活動においても、顧客の「問題・課題」の抽出と、どのようなことをやりたいか望んでいるかを、ヒアリングのときにも使える手法です。例えば、私の「プロジェクトマネジメント研修」のヒアリングの展開では、①「ありたい姿(To be)」に関して、「どのような企業になりたいとお考えですか?」と質問すると、「イノベーションが可能な組織にしたい。新規事業や新製品開発のスピードと成功率を上げたい。社員の能力を高めたい」などの回答えが返ってきます。②「現状の姿(As is)」に関して、「では、現状はどのようだとお考えですか?」と質問すると、「プロジェクトに時間がかかる。失敗するプロジェクトも多い。プロジェクトを毎回1から計画している。」などの回答えが返ってきます。③「ギャップ(問題点)」は、に関して、「では、何が問題だとお考えですか?」と質問すると、「過去の経験者に業務の負荷が偏っている。プロジェクトマネジメントの知識とスキルをもっている人材が不足している。過去のプロジェクトの資料がない。」などの回答えが返ってきます。④「Purpose(目標・目的)」として、「それでは、プロジェクトマネジメントの知識を共通言語化する。情報資産を蓄積し活かす仕組み作る。プロジェクトの進め方を社内ルール化しませんか? 」と提案します。顧客の「ありたい姿(To be)」と「現状の姿(As is)」と「ギャップ(問題点)」と「Purpose(目標・目的)」が明確になって初めて、効果的な営業活動に繋がります。
 ギャップ分析は、普段、人が頭の中で考えていることを、思考プロセスを明確にして「目標と問題点」可視化します。「問題解決」のツールとして応用範囲が広く有効なものです。

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