夏の渦

あ、ザボンや。ここやったんか。
大通りを見下ろした眼差しの先にグレーがかった乳白色の看板がある。深夜2時に灯っていない、一見すると無地の看板に目を凝らすと消えかかった文字がなんとかそう読める。いや、見れば見るほど手書き調のタイポグラフィがぼんやりと浮かび上がってきた。随分と前に閉業したラーメン屋の、排気ガスにすすけた看板は優しい幽霊のような佇まいをしてこちらを静かに見つめ返してきた。

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