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友人だった彼の笑顔が大好きな話(小説めいたもの)

初めまして、このページを開いてくださりありがとうございます。

小説めいたものを書きました。フィクションです。

素敵なお写真お借りしました。ありがとうございます。クラゲ、好きなんですよね。ユラユラ

若干血とかの表現が出てきますが、そんなでもないです(一応)。

一個目の投稿がコレかよとも思いましたが、今後は自分の事も書いていくつもりです。よろしくお願いします。


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久しぶりに会った君は終始真顔で、僕なんてとっくに脳内にいないようだった。僕は信じられなかった。その時はまだ、回復したら昔見た眩しい笑顔がまた見れるんじゃないかなんて一縷の望みをかけて、君の髪を掴み、大声で訴えかけながら必死に脳を揺らした。声帯の限りに喚き散らしたが、それでも彼の表情筋が一切動くことはなく、しかし、涙でぐちゃぐちゃになった僕の顔面をしっかりとその目で見据えながら、小さい声で「ごめん」とだけ呟いた。

そんな酷い面会の後目の当たりにしたのは、大雑把に縛られた人間達を次々と肉にしていく彼の姿だった。人間の呻き声にかまわず、血しぶきを恐れず、ただ本能的に腕を動かしていくさまに目が離せなかった。僕と彼の間には部屋を分ける透明な分厚い壁があったのに、存在の意味を途端に失くした血の芳しいかおりが鼻腔をくすぐらせた。
そしてその時、彼は曇りのないとびきり素晴らしい笑顔だった。さっきは僕の訴えに眉ひとつ動かさなかったのに。人を殺すことがまるで良い行いであると揺るぎなく信じた輝かしい瞳で、僕に狂気さえ感じさせない。遠い昔一緒にいた頃に向けてくれた笑顔と、本当にぴったり同じだったんだ。彼がまるであの時と同じ、天使のように思えた。

正直に「君の人を殺している時の笑顔が好きなんだ」なんて言いたくなかった。だからその言葉は地面に埋めて、僕は大人しくシステムの奴隷になった。
怖かったんだ。もしもまだ抜けきれていない元の優しい彼が残っていて、それが僕の言葉を養分として芽を出してしまうことが怖かった。たとえそれで、毒水に深く沈みつつあった彼の体をこの手で救い上げられたとしても。もし今彼が元の人格を取り戻したら、きっとその手で犯した事にどうしようもなく焦り、怯え、それから殺した人たちのことを自分の身を呪うように一生涯考え続けるのだろう。彼は優しい人だから。しかしそれは僕にとって不利益だ。だから僕は彼の笑顔を、己の目前の欲求を優先した。これはよくよく考えれば、彼を本当に闇に突き落としたのは僕だということになるかもしれない。はたして僕は、その罪をどんなふうに償えば良いのだろう。

僕に与えられた仕事は簡単だった。実験用の人間を選定し、彼のもとに連れて来るよう指示するだけ。これだけで、僕は彼が人を殺すさまをずっと見ていられる。

最初、彼の殺し方はほとんど同じだった。首を跳ねるか、心臓をひとおもいに。ザラザラとした懇願の声には目もくれず、いたってテンポよく手を動かしていた。そのせいで、終わった頃には包丁も彼の服も血まみれでドロドロになっていた。しかし、最近は丁寧にいたぶるのが好きなようで、関節を一つずつ逆に折り返したり、臓器を全部取り出したりと、前よりパターンに富んでいる。僕としては、彼の笑顔をじっくりと味わえる時間が増えて嬉しい限りだった。それは段々と長くなり、彼も僕も、沼の奥底にどんどん引き込まれているんだろうな、なんてぼんやりと感じた。

いつのまにか、僕に「ごめん」と言ってくれたかつての彼の心は見えなくなりつつあった。それでも僕は、システムと自分の欲に従い続けた。
その事実に気づいた時僕は改めて、自分からこの黒い沼に飛び込んだのだ。息ができなくても、いつのまにか身動きが取れなくても、分かっていたことだ、後悔はない。

それから数年。僕は、幾つも並んだプラスチック製の保存用パックの一つを手に取った。彼は既に死んでいた。求める対象が亡き今もなお、自分が狂い続けているのは分かりきっていたが、体に染み付いたあの喜びの感覚が僕を掴んで支配して離さない。パックの封を少し切る。壁のせいで感じられなかったはずの、黒い血の芳しいかおりが一直線に胸を刺す。

たったこれだけで、心臓から花が咲くように全ての感覚が鮮やかに広がり蘇った。目蓋を閉じて、記憶の海で君を探した。もう随分と、長い時を超えなければ出会えなくなってしまった。君が僕に向けてくれた眩しい笑顔。

また彼に会いたいとは思わない。あの時の彼はだんだんと壊れていく最中で、僕も自分が後を追うように壊れていくのが理解できた。それには喜びすら感じられた。君が歩いた道を、僕もまた歩くことが出来る。その道にさえ愛着を持てた。

しかしまだ、君を闇に突き落としたという罪の償いを保留にしたままだった。そうは言っても死んだ彼へすることだから、どうやれば良いのか分からないのも納得だろう。いや、ずっとそうやって僕は理由をつけて、自分の黒い部分に向き合わず、ずっと逃げていたのだ。第一、彼が生きていた時点で僕は贖罪らしいことを何もしていなかったじゃないか。自分の傲慢さとねじ曲がった人間性を消せないことにひどく自殺したくなった。
だから、僕はこのままひっそりと生きていることにした。一生彼を救えなかった事を後悔して、自分の犯した罪と自殺願望に苦しんで、それから君が断ち切ってしまった幾つもの人生を、友である君の分まで僕が嘆こう。
そして僕が彼と同じ地獄に行ったら、あの優しい笑顔で殺してもらおう。自分の血しぶきのかおりと君の笑顔で、今度こそ本当に死ねる気がする。


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ありがとうございました。

自分でもなんだこれと思います。多分優しかった彼は、謎の施設で実験体としてだんだん薬漬けにされて、人を殺すことしか喜びと感じられなくなって、そのまま死んだんでしょうね。

一方で主人公は彼の笑顔大好きマンです。多分友人だった時に、彼の笑顔に救われた思い出でもあるんですかね。設定としては主人公も薬を飲まされてます。彼よりはだいぶ軽くですが。主人公が殺してるところを見て次は自分かも、と全く思わなかったり、殺し方の移り変わりを冷静に見てるあたりに、薬の効果が現れているのかもしれませんね。

この薬ですが、一つの物に対する感情を思いっきり引き上げて、それ以外をゼロにするみたいな物なんだと思います。引き上げられたのは殺しと笑顔ですね。主人公は色々あって彼の笑顔が好きになったはずなのに、笑顔「だけ」ピンポイントで求める人になってしまいました。彼が死んだ後の主人公は薬の効果が薄まっているのか、自分の頭で罪について考えている気がします。


感情のある私とあなたが幸せになれますように。💫

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