6.25 詩になりそうな火曜日

日差しが眩しい。

いつも通りの六月は梅雨に入っているはずだ。

不自然な気温に首を傾げながら僕はお気に入りのタンブラーに入った水を渇いた喉に流しこんだ。

社会の荒波からドロップアウトしてしまい何かよくわからない仕事をたまにこなしている僕は旅行関係のフリーランスの仕事を請け負っていた為、観光地の動画を撮影しにかつて万国博覧会が行われていた公園へと向かった。

仕事は海外の方向けに観光地を紹介するといった動画を撮影する事で、僅かながら英語を話せる僕にとっては好都合な案件と思い請け負った。

しかし先延ばし癖が強すぎる僕は締め切りギリギリの月末に撮影をようやく始めた。頭の中ではそれなりに完成していたのだが、いざ行動するとイメージと全然違うのが現実なのは重々承知しているのだが、なぜか毎度同じパターンで出遅れてしまう。僕の悪い癖だ。

僕は果てしなく広い公園で絵になる場所を探しながら、撮影をしてひたすら歩き続けていた。

先ほどにも申し上げたが、僕の動画は海外の方に向けてということなので今いるこの公園に来ている外国人がいれば色々とインタビューをしたいと思っていた。

実は前日にも公園には訪れてチェックしていたのだが、話しかけやすそうな人は見つからず断念していた。

動画で撮りたい紫陽花がたくさん咲いている場所に向かおうとしていたら、金髪のサングラスをかけた女性がベンチに座っていた。

「どうやって話しかけよう・・・・」

僕はすごく悩みながらも泣けなしの勇気を振り絞り声を掛けた。

「すいません。あの・・・お聞きしたいことがあるんですがいいでしょうか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

と返ってきた。

僕は彼女この観光地をどのように知ったか、あとここの観光地の感想などを聞いた。

快く彼女は答えてくれた。

少しだけ話をした後、僕は紫陽花を撮りに歩き始めた。

15分から20分程だろうか、撮影が終わって行きと同じ道で帰るとさっきまで話していた彼女がまだベンチに座っていた。

別れる前に紫陽花を撮りにいくと話をしていたので、花の写真や行く途中に撮った写真などを見せて再び僕は彼女に話しかけた。

話は次第に盛り上がり、お互いの国の歴史や思想、初対面では話しにくい堅い話などしているうちに将来や夢の話になった。

僕はシンガーソングライターとして歌を作っている。ギターを練習して曲作りや、インターネットでのライブ配信などをしている。曲も配信して売っている。まだ駆け出しで、この夏は勝負でオーディションやデモテープ、イベントにも力を入れて活動をする。自分がしていることを紹介した。

それに応えて彼女も自分の夢などを話してくれた。

彼女はポーランドから日本に来ていた。日本に三度来たことがあるらしいが日本に来ることは彼女にとって大きな夢だったらしい。そして夢は叶っている。もう一つの彼女の夢がすごく興味深いものだった。

「作家になる」これが彼女の夢だ。今はポーランドで仕事をしながら構想を膨らましているらしい。

すごく素敵な夢だと思う。そして夢というより、現実化しそうな目標だと僕は思った。なぜなら彼女は自信に満ち溢れていた目をしており、話す言葉一つ一つに説得力があったからだ。

そんな彼女が話した一つのストーリーに僕の心に雷が落ちた。

J・K ローリング

誰もが聞いたことであろう「ハリーポッター」シリーズの小説を書いた作家だ。

彼女の人生が壮絶なのは有名な話だが、それ以上に驚く話があった。

「ハリーポッター」の小説は十数社の出版社に断られたそうだ。

あれほど面白い話なのに多くの出版社が断った事実に僕は声をあげてしまった。

最終的に出版することにはなったのだが、映画化してこんなに素晴らしい作品を生み出した人すら想像するに絶えぬ苦悩を味わってきたという真実。

「決して諦めず続けること」

最後に笑う人は泣きじゃくり続けても諦めずに続けて来た人だと彼女は言っていた。

僕は生まれてこのかたこの言葉は綺麗事だと思っていたが、そうでないことを今日知った。

「人生で味わったことを言葉や歌にすることが、きっと人々の心に響く音楽になるだろう」と彼女は言っていた。

この言葉は僕が辛い時も自分を支える強い言葉になると思った。

彼女はいつか人々の心を掴む素晴らしい作家になるだろう。

いつの日か彼女の書いた小説が映画化され、その映画の音楽を僕が手がける。

そんな美しい日が来てほしいと僕は願っている。

2019年6月25日の出来事              徳川れおん


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