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白髪1本5円なり~

子どもの頃、よく、母の白髪を抜くお手伝いをさせられていた。

面白くないのと、まちがって黒髪を抜いてしまった時に、めちゃくちゃに怒られるのが嫌なのとで、やりたくないなあと思っていた。

2歳年下の妹は、しょっちゅう黒髪を抜いてしまうので、母からお手伝いの解雇宣言をされ、嬉々として外遊びに出かけていた。

私も、それに倣いたかったけど、ついつい、
「一本抜いたら、5円上げるわ。」
の母の言葉に負けてしまい、黒髪を抜かんようにドキドキしながら、母の白髪を抜いていた。

若く見えることが自慢の母は、それほど白髪はないと思っていたらしいが、子どもの私が見ても、あちこちに白い髪の毛が、ピンコピンコと浮きあがっているのがわかる。

パッと見だけでも、50円は手堅い。

髪の毛を、かき分けてみたら、きっと100円は手堅い。

もしかしたら、200円になるかもしれん。

そんなことを思いつつ、思わずにんまりとする。

が、そういう瞬間にやらかしてしまう。
100円玉の絵が頭に浮かんだとたん、私の手は、母の黒髪を抜いてしまうのだ。

「あっ。」

という声は、心の中でとどめておいて、しらんふりをして、次の白髪にチャレンジする。

でも、しっかりとばれる。

「あんた、今、黒い髪の毛抜いたやろ。お母さん、髪の毛少ないねんから、一本でも大事やねん。もうそんなんやったら、お小づかいあげへんで。」

と、なる。

今から思うと、髪の毛を抜かれると、ぶちっと痛みを感じるので、母にばれるのは当たり前のことやのに、当時は、なんでばれるのか不思議でしょうがなかった。

うちのお母さんは、魔女とちゃうか。
それやったら、魔法で、自分の白髪くらい抜いたらええのに。

とか、思ってた。

こんなやりとりを、いったい何十回繰り返したことやろう。

貯金が大好きやった私は、ついつい、1本5円に目がくらむ。
あかんわ~。

でも、もっとあかんのは、1本5円のお小づかいをもらった記憶が、まったくないということやわ。

「あとでな~。」
「いま、こまかいのんがないから、あしたな~。」

と、そういう母のセリフは思い出されるのに、お小づかいをもらって、ほくそえんでいた記憶がない。

これって、もしかして、お年玉を貯金するから預かっとくわとか言って、結局うやむやになる例のやつと同じやん。
うわ~~。
めっちゃ、あかんやん。
しかも、何回も騙され続けてる私。情けなさすぎやん。

ぼ~っとした子どもやんやろなあ。


もう、今や、白髪なんて全然怖くないお年頃になった私。
抜いたりしたら、えらいことになりそうやから、美容院で染めてもらっている。

抗がん剤で、一度は、ハゲ坊主になったので、もう白髪頭なんて、たいしたことはない。
染めたら、しまいやん。
染めんでも、グレイヘアとかいう選択肢もあるし。

白髪を見つけて、歳をとったことを実感していた頃も、遠い昔のことになったわ。
59歳やもん。
白髪くらい、あったりまえ。



でも、先日、娘の頭のてっぺんに、ピコンとたっている一本の白髪を見つけた。

おしゃれな娘は、孫が生まれても、二人してかわいらしい服装をして、若いママって感じを保っている。
1人で歩いていたら、おそらく、ママには見えないやろうなあ。
そんな感じである。

その娘の頭に、白いものが、力強くピコン。

「あっ。」

これも、心の中でとどめておく。

もちろん、抜いたりなんてしない。

でも、久しぶりに、歳をとったんやなあと、ものすごく感じた。
娘がじゃなく、自分がである。

こういう感じ方もあるんやなあ。


そんなことをしみじみと感じながら、琵琶湖を眺めつつ珈琲を飲む。

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