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雪の日に閉じ込められて

10年に一度の大寒波から引き続き、私が住むこの琵琶湖が見える地では、今日もまだ雪が降り続いている。

静かである。

とにかく静かである。

こんなにたくさんの雪が降っているのに、何一つ音がしない。
雪が降っているから、音がしないのか。

家の中にいると、なんだか閉じ込めらてれいる気になる。


大寒波到来の初日の日に、大雪の中を5時間も運転をするはめになった私。
いつもなら、1時間ほどの道のりが、大渋滞となり、こんなにも時間がかかってしまった。
私にとっては、連続最長記録の運転時間。
そして、大雪の中の運転も初めて。

心の支えは、スタッドレスタイヤと、数日前に車の点検を済ませていたこと。

ドキドキする心臓と、浅くなる呼吸。
かなりの小心者なのが、こういう時によくわかる。

「大丈夫、大丈夫。」と、自分に声をかける。
カバンからハンドクリームを取り出して、手の甲に塗りまくる。
いつもの香りで、落ち着かせようとする作戦だ。
ラジオは、雪への注意喚起の内容ばかりで、よけいに焦る。
たった一つ、まったく雪とは関係のない、くだらん喋りをえんえんと続けている放送局があり、それを聴いているとほっとした。
くだらん喋りって、大事なんやなあ。

5時間かけて、帰宅した時には、もう富士登山から帰ってきたくらいの気分だった。
富士山には、登ったことはないんやけど。


でも、まだ終わらない。
夫が、電車の中に閉じ込めらているのだ。
復旧の見通しが立たない中、雪はどんどんひどくなる。

とにかく、途中下車させられた時のために、夫が閉じ込められている場所から最寄りのホテルをかたっぱしから調べる。
こういう時には、娘夫婦の若者力が発揮され、検索は速いし、アイデアもバンバンだしてくれる。

しかし、ホテルは、のきなみ満室。
どうしよう~。おろおろ。

となっていると、娘夫婦から、漫画喫茶やカラオケボックスはどうか?と。
うわあ。思いもつかない。
なんなら、漫画喫茶なんて行ったこともない。
カラオケボックスも、最後に行ったのは、いつのことやら。

それぞれに、連絡をしてみると、
漫画喫茶は、予約はできないらしく、しかも、その時点で10人以上の人が入店待ちをしているらしい。
カラオケボックスの方は、なんとか予約がとれた。
しかし、まだ電車の中に閉じ込められた夫は、いったい何時にカラオケボックスに向かうことができるのか?

夫の電車が止まったのが、18時半ごろ。

私が帰宅できたのが、22時半ごろ。
そこから、慌てて、夫の状況について情報収集。
娘が、Twitterなどで得た情報を次々と流してくれる。
とにかく、見通しがたたないことが、不安でしかたない。
体調面は大丈夫だろうか。
寒くはないだろうか。
トイレは、大丈夫だろうか。
自慢じゃないが、夫は、まあまあトイレが近い。
いや、非常に近い。
寒さにも弱い方である。
いや、めっちゃ弱い。
夫のスマホのバッテリーもいつまでもつやら。



そんなこんなで、夫が帰宅したのは、翌日の朝10時。
電車を下ろされ、線路の上を歩くこと40分。
そこから、始発までカラオケボックスで過ごし、
その後は、いろんなお店を行脚しながら、始発電車を待つ。
電車も、人々が押し寄せるので、なかなか乗れない。
なんとかかんとか電車に乗り、最寄りの駅にたどり着く
最後は、駅から、雪道30分の徒歩。
これまた、歩くのが嫌いな夫。

どれだけ、ズタボロになって帰ってくるんやろう。

風呂を沸かし、部屋をあたため、布団を敷いて電気毛布をセットし、玄関のカギをあけて、ひたすら待っていた。

すると、隣の家のあたりで、何やら話し声がする。

妙な時刻に帰宅する夫に、ご近所さんが声をかけていたらしい。

「実は・・・。」
と簡単に、状況を説明している夫。

「え~っ!!テレビで見てました~!え~っ!」
と、まるでスターのように騒がれている。

そして、玄関に入ってきた夫は、予想に反して、元気な表情。
そりゃあ、疲れてはいるだろうけど、でも、体調不良の人を救急隊につないだり、頑張っていたらしく、しかも、最後にはスター扱い。
持ちうるすべてのアドレナリンを放出していたのか。

とにもかくにも、よかった。
無事であったことがよかった。

他の皆さんも、どうぞ無事でありますように。



と、大寒波トラウマが大きく残った私は、今日の雪にも超びびり、
なんと仕事をお休みしたのである。

正規で働いていた時には、どんなことがあっても、職場に向かっていたのに、雪を理由にお休みするなんて、考えられない。
こんな理由でお休みするなんて、いったいなんて思われるんだろう。
そんなことが、頭をちらっとよぎる。
でも、心が動かないのである。
少々無理をしたら、行けないことはないのかもしれない。
それとも、なにか、嘘の理由をでっちあげようかなあ。
誰もが納得する理由だったら、私も気が楽。
そうしよう。
うん。そうしよう。
たいした嘘じゃないじゃん。


そんな時に、youtubeの音声が聞こえてきた。
吉本ばななさんと、茂木健一郎さんの対談のようだ。
吉本さんの作品について、何やら語っている。

「違うこと」をしないこと

という作品のようだ。

違うことをしないってどういうこと?

その作品を読んでもいないのに、勝手に、私の今の状況がそれに思えてきた。

病気で心が弱っていて、ちょっとしたことにも、やたらと心配症になっている私。
雪のことを心配しながら仕事をすることは、とても心に負担。
そのくせ、何でもないふりをしてしまうから、余計にしんどい。
天気については、予想以上のことが起こりうることも、つい先日経験したばかり。
もう、自分の気持ちが穏やかに過ごせる方を選択しよう。
嘘をつくのも、なんだかすっきりしない。
違うことをしない。
そうすることにする。


といった心持ちで過ごす雪の一日。
降り続く雪を見ながら、こうしてnoteを書く。
なんて贅沢。


それにしても、タイトルと対談を聞き齧っただけの
「違うこと」をしないこと。
あまりにも、ばななさんに失礼なので、近々読んでみます。

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