#2 /小池精米店・三代目 小池理雄 さん「当たり前だけど、作っている人によって同じ品種でも味が違う。人に焦点をあてるとお米ってもっと楽しくなるんです」
港区から始まった100人カイギ。港区100人カイギ解散後、次に立ち上がったのが渋谷区100人カイギでした。
その第7回目にご登壇された、小池理雄(こいけ・ただお)さん。変化の激しい原宿の街にたった一軒になったお米屋さんが、どんな想いでお米を扱っているのか、どんなことを伝えていきたいかをお聞きしました。
お米に関わる楽しさを伝えたい
――五ツ星お米マイスターと東京米スター匠のふたつの資格をお持ちなのですね。
五ツ星お米マイスターは日本米穀商連合会という団体が認定していて、東京米スターの上位である「匠」は東京都米穀小売商業組合という別の団体が認定してるんです。両方とも自分にとって意味のある資格なので、両方の会費を払ってるんですよ。出費が痛いですけれど(笑)
三ツ星マイスターというものもあるし、新しく「ごはんマイスター★」というのもできますよ。米屋以外の方でお米に関係のある方、例えば料理人などそういった人向けに講座をやるのですが、講座を受けたっていう称号が欲しいというので、制定されました。「マイスター★」を与える授業をする講師になるための講義を受け、講師になる予定です。
――資格は一般の人に広く伝える効果がありますよね。
私の活動のひとつとして、お米だけではなく、お米に関わる楽しさを伝えたいという気持ちがあるんです。ずいぶん前から一般消費者向けにお米ゼミというものをやっていたんですよ。それがいよいよ世間に認められてきた。時代が追い付いてきたんですね(笑)
――渋谷区100人カイギにご登壇されたのは、どのような経緯だったのですか?
近所に元ベネッセの方でフリーのエディターの三好さんという方がいて、前から知り合いだったのだけど、渋谷区100人カイギに登壇されたんです。彼女がおそらく運営の方に「誰かいないか」と聞かれたのだと思います。それで紹介されました。三好さんは、オーガニックとスローフードのお店「たまにはTSUKIでも眺めましょ」という池袋の居酒屋さん(いまは閉店)の髙坂 勝さんの本を担当した方です。彼のモットーは「減速して生きる」。生き急いじゃだめだよという意味で、そのタイトルの本も出してます。髙坂さんも知り合いだったので、面白いつながりだと思いました。
――当日はどんなことを話されたのでしょうか。
10分しかなかったので、すごく早口でしゃべった記憶があります。原宿でやっている活動について、たんに米を売っているだけじゃなくて、お米ゼミとか、表参道ごはんフェスといったイベントもやっていて、みなさんの思っているお米屋さんのイメージとは違いますよ、ということを話しました。10分は短かったですね!
――ご登壇されたときの100人カイギの印象はどうでしたか?
単純に面白そうだと思ったのが参加したきっかけでした。渋谷は生まれ故郷だけど、いろんな方が活躍されているんだなぁと思いました。特徴的な方が多かったので、やっぱり渋谷ってすごいなと。お米やってる人間からすると、全然普段出会わないような方々と触れ合えたので面白かったです。
登壇した回は、道玄坂の商店街の方と、早起きの会の方、日本のチョコレートを作るといっていた方、それぞれぜんぜん違うことをされている方たちでした。
毎回そうですよね。いい意味で、変な人たちが多い。情熱を持っている変態さんたち。みなさん、それぞれの分野で特徴を持っていて勉強になります。
――ご登壇後、新たなつながりや、いままでの活動に影響はありましたか。
SPBSという本屋さんが奥渋にあるのですが、渋谷区100人カイギとコラボして、お店に合う本の本箱を置いていくプロジェクトを去年やりました。「小池さんならこういう本を紹介したいに違いない」という本を小池精米店担当の店主が選んで置いていくんです。本にはカバーがしてあって、何の本だかわからない。カバーを外すとやっと何の本かわかって、選者のコメントも書いてある。
このプロジェクトは、本を軸にして、人と繋がるという目的だったんですよね。本を求めて街に出てもらおうということだったようです。5店舗選ばれていて、本をきっかけにお店を知ってもらう目的でもありました。本から始まるつながりですね。インスタライブもやってもらって、面白かったです。みんな初めてだったのに、よくやったと思います。
お米って作る人の工夫や想いが入ってるものなんです
――今は何に関心がありますか?
長い間のテーマなんですが、消費者の方にお米の価値をわかってもらいたいということ。そこに尽きますね。
お米は安いから買う、高いから買わないっていうものではないんです。モノとしてみるのではなく、本来ならお米を作っている人がいて、ちゃんと美味しくなるように工夫もしてる。そういう背景がわからないから、どうしてもモノとしか見れないんですよね。バックボーンも含めてしっかり伝えていくのが、僕らの業界の役目だと思っています。それをどうやって伝えたらいいのかな、というのがテーマですね。それが、お米ゼミだったり、SNSやウェブサイトでの情報発信であったりをしている理由です。
――そういえば小池さんのウェブサイトのお米の評価の軸に、「社会貢献」とか変わった切り口が入ってますね。
あれは実験的にやってます。ここまでやっているお米屋さんはいないと思います。どのお米も一緒じゃないんだけど、食べても違いがわかりづらいので、作っている人とか産地とかを示して、人に感情移入してほしい。そこまでいかないと、お金を出して買わないと僕は思っています。料理だと工夫があったり見た目が違ったりするんだけど、お米はみんな同じ見た目。それだけに違いを表現する切り口が必要だと思います。
お米は日本人のほとんどが食べているけど、特に違いなどを気にせず食べてますよね。大量消費的に使われているということも原因ではあるのだけど、価値があることを示して目を向けさせるようにしないと、価値がわかる可能性がある方たちも、安い方に目が行ってしまうんですよ。
たとえば、つや姫はパッケージが同じだから、中身も全部同じだと思われてしまう。「小池さんのところで売ってるものと、スーパーで売ってるものと何が違うんですか?」と言われることがあるけど、お米は農産物で作っている人が違うから、味も違うに決まってるんです。産地は同じ山形だけど、田んぼも作っている人も違う。同じパッケージにされているから、モノだと認識してそこまで考えが至らないんです。考えればわかることなんだけど、モノとして見てしまっているから。
日本で「お米」というものを知らない人はいないのに、そういう話をするとみんな「知らなかった」って言うんです。そこの「ギャップ萌え」でお米への関心を持ってもらえたらいいですね。
――お米のことは知っているけど、意外と知らないことって多いんですね。
知らないでいるのはみなさんのせいじゃないんです。このお米業界のせいなんです。
米は昔は黙っていても売れていた。原宿には米屋が12~3軒あったんですよ。いまはうちだけ。配給所だったから、商売しなくても売れました。
何もしなくても売れて、お米の魅力を伝える必要がなかったから、やってこなかった。一般消費者の方もそういうものだと思っていた。だからいま、お米の価値を喧伝していかないとと思っているんです。
――普段スーパーでお米を買ってしまうのですが、実は家の近くにもお米屋さんがあるんです。
スーパーで買ってもいいんですよ。米だけを買うのにわざわざ米屋に行くのはめんどくさいから、スーパーですませちゃいますよね。でも大きなスーパーだと、JAさんのように大量に供給できるようなお米しか取り扱っていないんです。
お米屋さんなら、地方の個人農家がこだわって栽培していて、でもあまり量が多くない、といったお米が取り扱えるから、お米屋の方がおいしいお米に出会える可能性が高い。
近所にお米屋さんが残っているということだけでもすごいですよ。廃業しているところが多いから。特徴がないと生き残れないんです。販売を業務用に限定してしまったお米屋さんもありますよ。家庭用だと種類が増えて大変なんです。
うちは80種類くらいあるので、棚おろしが大変です。1種類につき、30キロの袋が1個2個の単位で置いていて、切らすわけにはいかないので、どれがなくなりそうか頭に入れておかないといけない。もうそろそろ玄米を注文しないととか、もうすぐあの寿司屋から注文くるから、新米じゃなくて古米でとか。そう、同じつや姫でも新米と古米両方あるから気を付けないといけないんです。
――新米と古米がある、いまの時期だからの問題ですね。
そうそう、いまの時期は両方あるから。年明けはもういいのだけど、寿司屋は古米じゃないと嫌がるんですよ。寿司屋はだいたい古米なんです。握りやすいし、シャリ切りしたときにばらついてくれる。新米持って行くと文句言われますよ。新米は細胞組織が柔らかいから、握ったときにべちゃつくんです。だから新米であってもなるべく数か月経ったものを持っていきます。
お米は農産物だからいつも出来が違うもの。なので年が変わればまたイチからお米を見直した方がいいとは思っています。
――お寿司屋さんはササニシキと聞いたことがありますが・・・
昔はそうだったかもしれないけど、最近の若い寿司屋さんは自分が作りたい寿司を明確に思い描いていて、そこにいたるにはどんなお米がいいのかと考えて握っているので、盲目的にササニシキとはならないです。ササニシキは甘みが足りないんですよね。
作りたい寿司のイメージを聞いてやりとりして、ブレンドしています。お客さんごとにブレンドが違うので、その管理も大変です。
――お米ってブレンドしているんですね。知りませんでした。
ブレンドは大事なんです。たとえばつや姫を開発するのに10何年もかかるけど、ブレンドしたら一発でその味にたどり着ける。
昔は品質をごまかす手段として使って捕まっている人とかいましたけどね。(笑)
それぞれのお米の特徴を知らないとできないことなので、難しい技術なんです。
自分が扱っている種類に関しては全種類特徴を覚えているので、寿司屋の要望を聞いて、これだったらいけるかなと設計図を描いて、ブレンドして出しています。そういうやりとりができるので、寿司屋との付き合いは私も面白いです。
――以前行列のできるカレー屋さんでお米が、、、なことがあったのですが、寿司屋に行って、この米はダメだと思うことはあるんですか?(じゅんこさん)
ありますよ。言わないけど(笑)
昔の人ってお米をザルあげしちゃうんですよ。洗ったあとに。そうするとお米って割れちゃう。昔、どこかのお寿司屋さんで割れまくっていたところがありました。別のところでも、張りがなくておいしくないなぁ、うちのコメじゃないなと思ったこともありました。(笑)
値段に比例するとは言いませんが、そこそこの値段をとる寿司屋はきちんとこだわっていて、シャリが全然違いますね。
自分が売っているお米がどこで、どんな人が作っているのかを実際見に行く
――いろんな地域に行かれてるのはどうしてですか?(じゅんこさん)
私が産地に行くのはいくつか理由があるんです。
ひとつは東京の消費事情を話してくれ、といったことで呼ばれて行く。
それと、私が勝手に押しかけることもあります。お米ってわかりづらいから、自分が売っているお米がどんな産地でどんな人が作っているのか、知らないことにはお客様に話ができないし、ウェブサイトにも書けないので、そのネタを探しに行くんです。
究極的には、僕は産地を好きになることだと思っているんですね。好きになれば、自分自身が感情移入できて、お客様に伝えやすくなると思っている。でも逆もあるんです。会ってみたらイマイチだなと思ったり。(笑)
他のお米屋さんで産地に行く人もいるけど、全体的に見たら行く人って少ないんですよ。物を売るには、私はそういうことは必要だと思っています。逆に、行かなかったらお客さんに説明できないと思うんですよね。うちで一般家庭用として並んでいるのはほとんど産地に行っています。
三代目を継いですぐの、13年くらい前からそうしてます。そのころは両親とも元気だったので、あちこち行けたんですけどもね。昔は平日とかも行ってましたが、いまは土日しか行けなくなりました。
――小池さんが、これはおいしいっていうお米はありますか?
おいしさって難しいんですよね。お米って絵みたいなものなんです。ゴーギャンが好きとか、ピカソが好きとかあって、タッチも違う。それぞれ特徴があるので、その人の好みですよね。
僕の好みは、噛んだときの粒の張りが、ちゃんと弾力があるんだけれどもそんなに固くなく、ある程度力を入れたらちゃんとかみ切れて、中からデンプンが飛び出てきて、口の中に旨みと甘みがひろがって、とろみがあり、飲み込んだ瞬間まで味が続いているっていうお米が理想です。
試食会とかでも、食べた瞬間はもっちりしてやわらかくておいしいけど、味に深みがないものもある。まずくはないけど、深みがないとか、余韻がないとか、感じることがあるんですよね。登熟(とうじゅく=成熟させること)をゆっくりさせた方が、お米はおいしくなるんですよ。
外国の方にも、日本のおいしいお米を知ってもらいたい
――今後、どんなことにチャレンジしたいですか?
外国の方にお米を知ってもらいたいですね。
東京すし和食調理専門学校という学校があって、年に一回臨時講師をしているんですが、生徒の半分が外国人なんです。和食を知りたい、勉強したいっていう方が結構いらっしゃって、国に帰ってお店を開きたいと言うんです。でも現地でおいしくないお米を使っていたのでは話にならないじゃないですか。文化と一緒にお米も売るべきだし、和食とセットでお米も輸出したいと思いますね。
日本のお米はすごいんです。品種によって味が違うということが、海外の方には信じられないらしいですよ。向こうではお米は「お米」でしかなく、それ以上でもそれ以下でもないんです。品種が違うって意味がわからない。以前、ベラルーシの方が取材に来たときに「精米によって味が変わるし、白すぎてもだめだから、薄皮残すくらいで精米する」って言ったらびっくりしてました。
ブレンドの話もそうです。お寿司屋さんのお米の味は店によって全部違うんだよ、というとびっくりされます。結構、繊細な世界にぼくらは生きているっていうことが、外国の方の反応を見るとすごくわかるんです。日本人だと当たり前なんだけどね。すごいって思ってくれるんだから、もっともっと知ってもらったら面白いのかなと。だから、英語版のウェブサイトを作って、「うちが卸している飲食店はこういうお米を使っています」って紹介できないかなと考えてます。
コロナ禍前は、うちの店に海外の方がよく来てましたからね。それも原宿の米屋らしさのひとつかもしれないですね。
――なるほど。原宿にあるからこそ、海外の方へ伝えたいという想いにつながったのかもしれないですね。
貴重なお話ありがとうございました。今日はぜひお米屋さんのお米、買って帰りたいです!
聞き手:岩瀬友理・Junko Honma
文:岩瀬友理
写真:Junko Honma
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