「スプートニク」を読み、自分の軸で生きていくことについて思いを巡らせる
海野つなみさんの新刊「スプートニク」。
久しぶりの新刊なので、うれしくて発売日に購入しました。
本書の帯に使われている銀色の地に紺色の文字の組み合わせや、表紙に使われている紙も好きです。
ゆっくりと時間をかけて居心地のよい関係を築いていく
「スプートニク」はウェディングプランナーになって3年の浅利千尋が、会社に辞表を出すところから物語が始まります。
引き留めようとした上司の羽鳥汐路も、浅利の話を聞きながら、自分の気持ちに気がつき、浅利と時を同じくして会社を辞めます。
元ウェディングプランナーの汐路と浅利、汐路の弟でデザイナーの渡、
3人で居心地のよい関係をゆっくりと築きながら、人生の旅の仲間として描かれる物語です。
登場人物たちに起こる様々な課題に対して、彼女たちの前向きな捉え方に触れ、希望を見出しました。
この物語には、恋愛、結婚、子育て、介護、起業についての課題が散りばめられています。
ふと知り合いを思い出したり、これから先のことについて思いを馳せたり、3人の言葉に共感しながら、小さな希望の光を感じる作品でした。
作品の中で10年くらい経過するのですが、人間関係もワインの醸造過程のように、ゆっくり時間をかけて、居心地のよい関係を築けるものかもしれない、と感じます。
3人を含めた登場人物の健全な心のありように触れ、自分の荒んだ気持ちに気づいたりもしました。
わたしの場合は、全力で委ねられたり、寄りかかられるとしんどく感じてしまうため、この3人のように、ひとりひとりがしっかり立っていることで成り立つ側面もあるのではないのかなあ…。
途中、介護にまつわる話が出てくるのですが、
汐路と渡の母が、右視床の脳出血を起こしたあと、リハビリが順調に進み、母親が汐路に伝えた言葉が印象的で、
いざ介護が必要になった時に、親がここまでしっかり意志を持っているものなのか、さっぱりわかりません。
だけど、こんな風に意思を持って伝えてくれるなら、よいことだなあと、しみじみ感じました。比べても仕方ないけれど、つい自分の母が頭をよぎります。
これから先、どうありたいのか改めて自分に問いかける
汐路が以前からやりたいと考えていた「生どら焼きとかき氷」のお店を実現に向け動き出したときに、汐路が起業について語った内容に深く同意し、これからのことに思いを巡らせました。
ここを読んだときに「そう、そうなの!」と、頷きました。
身近な人のもしもに対応できる場を作れたら、とわたしも考えます。
わたしは、よく不安に囚われて、視野が狭くなるのも自覚しています。それでも目指しているのは、もしもに対応できる場を作りたい、自分にとっての持続可能な働き方を構築したいのです。
物語の後半、2021〜22年の設定で、汐路の実家をリフォームしてどら焼きのお店を出すところで、コロナ禍に触れながら、資材全般の不足問題や、資格や許可は何が必要か、レシピから考えて必要な厨房機器を見定める、という開業に必要な準備の流れをわかりやすく伝えられています。
もっと細かい決まりや、やらなくてはいけないことなど、もちろんたくさんあると思うのですが、説明ばかりになりすぎず、話の中でさらっとコンパクトに伝えてくれる点や、自分が知らないことでも興味を持てるような見せ方をしてくれる海野つなみさんの作風の好きなところです。
自分のこと、仕事のこと、家族のことについて、どうバランスを取っていくかを考えたり、改めてありたい姿を考えたりしながら、
そうそう、小ずるいところがあってもいいよね、と浅利の言葉に共感しつつ、そっと背中を押してもらえるような、心に小さな光が灯る作品です。
浅利が中古マンションのサイトを見ながら、リノベの間取りを描くことを楽しみ、実際にリフォームの勉強を始めて、汐路とともにお店を始めたように、わたしも毎日ノートに気持ちを書き散らし、気持ちを整えて、また次に進んでいこうと思える時間を過ごせました。
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