蛇探し(2023/08/06)

 妻子が朝から出かけて、自分一人で家にいた。特にすることもないから、プライムビデオで『きさらぎ駅』などを観て過ごした。
 夕方になって、娘の誕生日に自分は何も用意していなかったのが悔やまれてきたから、次の休みにカルボナーラを作ってやろうと思って食材を買い出しに行った。

 夜になって風呂に入ろうとすると、脱衣所の窓から外の会話が聞こえてきた。

「こういう所は、蛇が泳いでることがあるんだよ」
「え、蛇?」
「蛇がいるの?」

 父親と子供——おそらく男の子——が2人らしい。家の向かいに飲食店があるからそこの客だろう。こういう所とは、近くの田圃や側溝のことか。
 風呂に入っていると、今度は子供らが騒ぐのが聞こえてきた。

「いた?」
「いた! 蛇だ!」
「蛇だ!」
「わぁ!」
「蛇!」

 いくら何でもそんなに都合よく蛇が出てくるとは思えない。まして、街灯はあっても薄暗がりで本物の蛇がそうそう容易く見つけられるものでもない。
 家の玄関周りに猫避けとして蛇のおもちゃを置いているから、それを指して「いた!」とか「わぁ!」とか騒いでいるんじゃなかろうか。それならよっぽど近寄らないと見えないだろうから、勝手に敷地に入っている可能性がある。
 風呂から出て体を拭く間もまだ外から声が聞こえてくる。
 敷地にいるなら父親を懲らしめてやらなければならないだろうと、服を着て幾分うんざりしながら出てみたら、敷地にも通りにも誰もいなかった。車で走り去ったような気配もない。なんだか気持ちが悪かった。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。