![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142693595/rectangle_large_type_2_0a4dfb8ea94697122b78b1b2b7d9a64b.png?width=800)
深緑、ガラス
幼い頃に何度か、隣町の喜多田さんの家へ母と行った。
喜多田さんは母の学生時代からの友人で、何だか声の大きなおばさんだったと記憶している。
喜多田さんのところにはコウタ君という、自分より一つ上の男の子がいたから、母親同士が喋っている間はコウタ君と一緒に遊んだ。
何をして遊んだかは、もうあんまり判然しないけれど、彼が一休さんの絵を随分上手に描いていたのは覚えている。アニメキャラを描くにしても、一休さんを描く子はこれまで他に見たことがない。それで覚えているのだと思う。
後は、テレビで仮面ライダーを一緒に観たのも覚えている。
ある時、コウタ君が「これあげるわ」と言ってビー玉をくれた。深い緑色のやつだった。
「ありがとう」と、もらったはいいが、ビー玉の遊び方を知らない。コウタ君もくれたきりで、それで遊ぼうと云うでもない。きっと彼もビー玉の遊び方は知らなかったのだろう。
一頻り手の中で転がして、ズボンのポケットに仕舞った。
そのうちに日が傾き始め、喜多田さんの家からおいとました。
喜多田さんの家は坂の途中にあった。坂を下った所からバスに乗って帰るのである。
バス停の脇に売店があって、入口にコカ・コーラとスプライトの看板が掛かっていた。どちらもまるく、コーラは赤でスプライトが緑だった。
それを見ていたら、もらったビー玉のことを思い出した。
ポケットから出して眺めたが、やっぱり変哲のないビー玉である。つるつるしているけれど、特別きれいとも思わない。深緑が、何だか仮面ライダーみたいだと思った。
ふっと思い付いて片目をつぶり、開いた方の目に当ててみたら、視界が全部深緑になった。何だか不思議な心持ちで、そのまま空を見上げると、今度は明るい深緑になった。
これはきれいだと感心しているところへ、バスが来た。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。