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麺と疑惑

 大学入学で大阪へ移住して以来、モダン焼きばかり食っていたら、段々「そば肉玉」というのも実は別の名前があるのにこっちが勝手にそう云っていたのを、店の人が意を汲んで対応してくれていたのではないか知らと思えてきた。
 段々不安になったから、夏休みに帰省した際に、高校時代に行っていた店へ入って確かめることにした。
 高架下に一軒ぽつんと建っている店で、何だか薄暗い。店内はカウンター席が数席あるきりで、おばちゃんが一人で焼いている。そんな店である。
 高校の近くではあるのだけれど、近いと云っても微妙な距離で、高校生目当てにやっているわけではなさそうだった。
 全体、高校時代に行っていたと自分で云ったけれども、自分が高校の休憩時間に外食したのは授業のない三年三学期ぐらいだから、その店へ行ったのも一回きりだったろうと思う。

 あの時期だけは学校周辺の店に色々行った。特に覚えているのは海野飯店という町中華で、あそこへは三度ぐらい行った。
 初めて行った時、メニュー表の麺類の項にワンタンとあるのを見てそれを頼んだら、丼にスープとワンタンが三つばかり入ったきりのが出て来た。てっきりワンタン麺が出てくると思っていたから愕然とした。
 改めてメニュー表を見たら、ワンタン麺は次のページに書いてある。全体誰がワンタンだけを好んで食うものかと腹立たしく思ったけれど、間違ったと云うのも何だか決まりが悪いから、最初から知っていてオーダーした風を装いながらワンタン三つを食べておいた。
 後からすぐに腹が減った。

 再訪したお好み焼き屋は相変わらず薄暗かった。そうして中途半端な時間のせいか、他にお客はいない。
 時ならぬ来客におばちゃんはぎょっとしたようだった。
「……いらっしゃい」
「……そば……肉玉」
「……はい」
 結局、そば肉玉はそば肉玉で間違いなかったから、安心して大阪へ戻った。

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