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忘れ物、近未来

 混雑するのが嫌だから昼時を避けてフードコートへ行った。いつものラーメンをそう云って待っている間、気付いたら隣の席で唐揚げ定食を食っていたおじさんがいなくなって、テーブル上に彼のと思しきスマートウォッチだけが残っていた。席取りのためにこんな貴重品を置いておくとは考えにくい。きっと忘れ物だろうと思った。
 下手に触って面倒事になってもつまらないからしばらく放っておいたけれど、おじさんは一向に戻らない。どうやらいよいよ忘れ物に違いない。
 サービスカウンターに届けるつもりで手に取ってみると、自分のと似ていた。同じメーカーのものだろう。ただ、自分のよりもボタンが一個多い。新しいモデルなのかも知れない。
 そのボタンを押すと、盤面に周りの様子が映った。こんな機能は自分のには付いてない。どこにカメラが仕込まれているのか知らないが、さすがは最新モデルだ、近未来だ、と感心した。
 ただ、表示されている風景は、実際のものと少し違うようだった。テーブルの形が丸かったり、全体に薄汚れた感じがある。映っている人の年格好も随分違う。ことによると、何か通常は見えないものが映っているのかもしれない。
 全くこれは近未来だと、ますます感心したけれど、それが何の役に立つものかはついにわからなかった。

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