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紙一重


 これの続き。

 小四で釣りを始めて、最初は一向面白くなかったけれど、要領を掴んだら大いに楽しくなった。
 いつも大体、松岡と楠山と行ったが、小五になって松岡も楠本もクラスが別れた。そうして新しいクラスで懇意になった藤沢と上野は、どちらも釣りをやらなかった。
 ある時、「釣りやらん?」と二人に問うたら、興味はあるが道具がないと云う。
 それで近くの山へ三人で行って、手頃な葦を取って来た。釣竿にする算段である。
 家の前で葦の皮を取って糸を付けていたら、近所のおばさんが「釣竿作りおるんね?」と感心した。「ええじゃろう」と言ったら、「ええねぇ」とまた言った。
 藤沢と上野は「これで本当に釣れるんか?」と疑った。

 翌日、自転車でいつもの川へ行った。
 最初から餌の大きさを教えてやったから、二人ともすんなり釣れて、大いに喜んだ。そうしてじきに、どちらもまともな釣竿を用意した。

 ある時、上野が釣り大会に誘ってきた。
「百君、うちのお父さんが百君も一緒にどうか言っとるんじゃけど、行かん?」
 町内の釣り堀で開催される大会の子供部門だった。
 上野がどう話したものだか知らないが、お父さんから「百君だったら優勝も狙えるだろう」と言われているのだそうだ。それなら優勝しようと思って、お願いした。

 子供部門の参加者は十人ちょっとだったかと思う。もう昔のことだからそれは判然しないが、初めて他人と競うので、何だか胸がきゅうきゅうして、肩がぶるぶるしてきたのは覚えている。
 釣った数で五位までが入賞、一番大きいのを釣った者は特別賞というルールだった。

 愈々始まったら、何だか少し様子が違う。釣れないわけではないけれど、上野の方がひょいひょい釣っている。これはどうも按配が悪いと思ったら、いきなり大きなのがかかった。
 自分も驚いたが、周りのみんなも驚いた。
 どうやら三十センチはありそうだから、特別賞はこれでもらったろうと思った。他の者も同じくらいのやつを釣り上げたけれど、自分の方が丸々していて大きそうだった。それで安心していたら、一センチ差で負けた。
 釣った数では上野が優勝し、自分は一応五位になったけれど、何だか微妙な心持ちになった。

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