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蜂殺し、別れ

 中学生の頃、一時期毎日家の中へ蜂が入って来た。どうも近くに巣ができたらしかった。大体、一日に一匹の割合で来るのを殺虫スプレーで殺していた。

 蜂をスプレーで殺す際は、怖がって遠くから中途半端に吹きかけると、逆に怒った蜂の反撃に遭う。しっかり間合いに入って存分に薬剤を浴びせる必要がある。
 一度、うっかり遠くからやってしまったら、物凄い勢いで向かってきた。驚いて逃げたけれど、追いつかれて左肩にポツッと当たる感触があった。それで必死になって、肩が薬液で濡れるぐらいスプレーを噴霧し続けた。
「もう死んどるよ」と母が言うから止めてみると、着ていたTシャツに噛み付いたまま蜂は絶命していた。刺すにはお尻を前へ向けなければならず、その分飛ぶのが遅くなるから、スピード重視で噛みついてきたのだろう。
 亡骸を割り箸で外そうとしたけれど、しっかり噛みついていてなかなか離れなかった。大した執念だと感心した。直接噛まれたらきっと随分痛かったに違いない。しかし裸で蜂を殺そうとは思わないから、その心配はいらなかったろう。

 母方の墓は広島でも田舎の方にあり、墓守をしているおじさんの家は随分古かった。同じ年頃の再従姉妹らもいて、子供の頃には親に連れられてよく行ったのだけれど、壁の中に蜂の巣があって始終蜂が家の中に入ってくるから、どうにも落ち着かなかった。
 怖くないのかと問うたら、「別に、何もせんかったら向こうも何もしてこんよ」と笑う。再従姉妹らも、別段怖がる様子はない。そんなものかと思ったけれど、自分は矢っ張り怖かった。

 その後おじさんは離婚して、再従姉妹らは母親側へ引き取られていった。
 おじさんには墓参りや身内の葬式で会っているけれど、再従姉妹らにはもう会うことはないだろうと思う。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。