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名前と顔の連鎖

 幼稚園の友達を自分は割と覚えている。
 幼馴染のオサダ君に会った時にそんな話をしたら、彼はあんまり覚えていないらしい。幼稚園で何組だったかも覚えていないと云うから、自分と同じ黄組だと教えてやったら、「ふーん、そうなの?」と初めて聞くような感じだった。きっとまた忘れたろうと思う。

 岩戸君も同じ黄組だった。あんまり一緒に遊んだ覚えはないけれど岩戸という名前は覚えている。顔は何だか岩石みたいだった。
 同じ小学校にはいなかったようだから、どこかへ引っ越したのだろう。

 24歳の時、パスタ屋の副店長として横浜の店へ赴任したら随分生意気なバイトがいた。
 店長がシフトリーダーにする意図でおだて上げており、当人もそのつもりでいたようだけれど、どうもこちらに張り合ってくる感じがある。料理を教えてやっても「ふーん、で?」みたいな様子でくるから、気分が悪い。じきに放置して、他のバイトを育てることにした。
 彼は自分と同い年のフリーターで、名前は岩戸といった。
 岩戸というのはあんまり見ない名前だし、見た感じも岩石っぽい。ことによると黄組の岩戸君ではなかろうかと思ったけれど、いくら何でもそんな偶然はないだろう。もし本当にそうでも、黄組だったよねという他に何の話題もない。
 それで当人に広島の幼稚園に行ってなかったかと訊くのは止しておいた。
 段々バイトの顔ぶれが替わって自分のシンパが増えてくるにつれ、彼はシフトに入らなくなった。

 その後、別の店でバイトを募集したら、岩戸に随分そっくりな杉山君が応募してきた。顔が似ているだけで他には問題なさそうだったから採用した。
 杉山君は岩戸と違って従順だったけれど、自分が退職するとネットワークビジネスに勧誘してきた。ちょっと面倒くさいと思った。

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