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半月

 最初の就職先はチェーンのパスタ屋で、25の時に店長になった。まだ店のバイトと年が近かったから、大学の後輩に接するみたいな感覚で存外気楽だった。

 ある時、新しく雇った女子高生に紅茶に入れるレモンをスライスさせた。ややあって、できましたと云うから見てみると、ほとんどが半月みたいな形になっている。まともに丸く切れたのがほとんどない。随分不器用な女子だと感心した。

「おい、まじかよ、丸く切ってくれよ」
「えー! 包丁が切れないんですよ」
「そういう問題じゃないだろう。何だ、この三日月みたいなのは」
「あはははは」
「あははじゃないぜ、おい」と言いながら、切ったレモンの残骸をまな板に並べたら、何だか月の満ち欠け図みたいになった。
 それでちょうど出勤してきた上村に「どうだね、月の満ち欠け図みたいだろう」と見せてやったら、上村は一瞬の間を置いた後で笑いながら膝から崩折れた。

 あの女子の名前ももう判然しないが、レモンの月はこの先も時折思い出すのだろう。

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