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百卑呂シ言行録

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日常を切り出して再構築したもの。
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#私小説

感情、移動、ピュアモルト(2023/10/12)

 昨晩、ネルソン氏が「君、明日はS社へ上の人と行くのだろう? その商談は必要なのかい?」と言ってきた。 「上の人がセッティングしろというからしたけれど、あんまり必要とも思えんね」 「上の人にはS社よりもA社へ行って例の話をしてもらわなければならないんだが、彼は全体どうするつもりなのだろうね?」 「まだ行ってなかったのかい? これは驚いた」 「なにしろ上の人が自分でアポイントを取ると云ったのだからね。こっちは待つしかないさ」  そうして何だか当たり前のように呆れた顔をする。そ

家(2023/09/09)

 今日もまた、仕事を持ち帰って片付けた。このところ職場がちょっと面倒な感じになっていて、休むのが不安でいけない。  面倒な感じの原因は、どうやら人間関係が色々こじれているせいかも知れない。改めて考えてみたら、上の人しかり、畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)しかり、どうもイゴールさんやネルソン氏の話で自分までが険悪になっている感がある。  来月からネルソン氏は遠方勤務になるし、イゴールさんは年内で退職する。自分だけが険悪なままここに残るのはどう考えたって得策ではない。全体、こ

だるさ、吉報、他人の都合(2023/06/05)

 目覚めたら体がだるかった。昨夜の酒が抜けていないらしい。それでも二日酔いというほどではないから、覚悟を決めて起きた。 ※  今日は週例ミーティングをいつもより早い時間から始めることになっており、しかも今日は自分が進行役だった。一体このだるさでどうなるものかと心配したが、別段どうということもなく終わった。終わる頃にはだるさも解消されていた。 ※  明日出張することになっているから、先週末に同じ地域の他得意先担当者へ、都合がつくなら会いたい旨をメール送信しておいた。する

どんより(2023/05/24)

 今朝も出勤時に随分眠かった。深刻に疲れている感がある。  先日イゴールさんからトミーの商談に同席するよう云われた。担当外の得意先のこともある程度わかっておいてほしいというのがその理由だ。それはその通りだから「わかりました」と引き受けた。  今日がその商談の日だったのだけれど、今日になって畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)も同席すると知った。同席といったって、横に座って話を聞いていればいいのだろうと思って打ち合わせもせずにいたものだから知らずにいたのである。 「トミー

野菜炒めと神隠し(2023/05/20)

 7時前に起床したら、既に娘が起きて何やら料理していた。 「何を作っているのだね?」 「何か、炒め物。昨日お母さんと約束した」  そう言って玉ねぎとかにんじんを切っている。  それはいいねと云って外でうさぎのケージを洗っていたら、「炒め物は加熱メニューのどれでやればいい?」と娘が訊いてきた。うちのキッチンはクッキングヒーターなので、強火弱火の他に焼き物とかいくつか加熱メニューがあるのだ。  やがて妻も起きてきて、娘の朝ごはんも出来上がった。  野菜炒めは果たして、にんじん

居場所(2023/04/21)

 得意先Q社の人から、新入社員に製品勉強会をするからと講師の役を頼まれた。やったから売上になるというものでもないしあんまり気乗りがしなかったが、前任の畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)がこういう話が大好きでいつも無条件に引き受けていたものだから、今回も一旦引き受けざるを得なかった。  全体、畜山のやつはロクなことをしやがらないと思いながら資料を準備して赴いたのだけれど、いざやってみると何だか気分が良い。  帰りに全員から声を揃えて「ありがとうございました」と言われてますます

会議、雑(2023/04/20)

 ネルソン氏から、先日開催された戦略会議の議事録が送られてきた。見ると、どうも営業部ばかりが他部署から集中砲火を浴びている。 「全体これはどういうことだね? 営業ばかりが好き放題言われてるじゃないか」 「一番最初に発表したからだよ。営業に時間を取りすぎて、後の部署の質疑応答が端折られたわけさ」  ネルソン氏が事もなげに云う。 「時間の都合で端折られるような会議だったら、初めからやらなければいいだろう」 「社長がやると云うのだから、そうもいかないよ」 「第一、言われてる内容が

車を出す(2023/04/18)

 夕方の商談まで少しあったから、近くでYou Tubeを見て時間を潰した。  ちょうどいい頃合いになって、さぁ行こうかと思ったところへネルソン氏から電話が入った。 「君、今は社内かい?」 「いや、W社の前だよ」 「これから帰るのだろう?」 「これから商談だよ」 「なんだ、そうなのかい。困ったな」  事情も話さず他人の状況を一方的に聞いて困る法はない。勝手に困れと思ったが、念のため「全体、何をそんなに困っているのだね?」と訊いておいた。 「ついさっき社長から電話があってね、

丹田に力を入れて我慢する(2023/04/17)

 朝イチ、先週末に発覚したミスの件で得意先へ電話したが、折悪しく担当者が出ない。これはきっとこっちが週例ミーティングの間に折り返してくるパターンだろうと思ったら果たしてその通りで、ミーティング開始から数分で電話が鳴った。このタイミングでは出られないから、心を鬼にして「ただいま電話に出ることができません」とやっておいた。 ※  かつて営業部に在籍していた畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)は、得意先から電話があれば会議中でも構わず出た。そうして必要以上に大きな声で「お世話に

陰鬱な安息日(2023/04/16)

 妻が朝から娘を連れて友達親子と遠出する。出発するのは8時頃だが、その前に娘が学校の上靴を洗ったり、やらなければならないことがいくつがあるから、6時過ぎに起きたらしい。  娘は家だと何をするにもテレビを見ながらダラダラやるので、妻も自分もじりじりする。果たして今日もその呼吸でダラダラやって、「いい加減にしなさい」と妻が叱責する声で目が覚めた。  近頃は娘も一人前に口答えをするものだからいけない。あんまり言い返すようなら割って入るつもりで布団の中で頃合いを見計らっていたが、そこ

生きているうちに(2023/04/15)

 7時頃に起きようと思ったが、休みなんだからもっと遅くまで寝てたら? と妻が云ってくれたのでまた寝た。  そうして、メガネをかけてスーツを着たおじさんを家で面接する夢を見た。目覚めた後で、その人が祖父の若い頃に似ていたと気付いた。 ※  朝食後、義父が娘を踊りの稽古に連れて行ってくれた。ガソリンの節約だと云って妻がニヤリと笑ったが、帰りは自分が迎えに行くのだから使うガソリンの量は変わらない。  昼前に娘を迎えに行った。  妻は高校時代の友人と3人で食事に行ったので、自分

貧困(2023/04/14)

 朝、出勤途中にあんまり眠いものだから、車を停めて仮眠した。  ひとしきり寝て、そろそろ行こうかと思いながらまた寝てしまい、出発する夢を見た。それを2セット繰り返してから出社した。  仕事帰りにも2〜3度うとうとしかかった。  これだけ眠いようでは、どうも疲れが抜けていないのだろう。睡眠時間はもともと短めで変わっていない。変わったといえば、食生活だ。  去年の10月からダイエットを始め、先月とうとう目標の体重になったから、今はもうあんまり気にしていない。炭水化物も普通に食べ

口論シミュレーション(2023/04/13)

 ミサイルが飛んでくるから緊急避難しなさいという物騒なアラートが8時前に来ていたが、自分が気付いたのは14時過ぎだった。本当に飛んできたら知らずに死んでいたかも知らん。また、気付いたとしても5分の間に身の安全を確保できる気がしない。何しろ物騒なことだ。 ※  出社するなり管理部のフグ田さんが「百さん、これ」と書類を持ってやって来た。見ると先日クレーム処理で自分が使った数百円の精算書である。 「これが何か?」 「毎回こういうお金が発生するんですか?」 「今回はイレギュラー

空を見ていた(2023/04/12)

 昼イチで大きく仕掛ける商談があるので、まずはメール返信などの雑多な作業を片付けてからシミュレーションをしようと思っていたら、社長から呼び出しが入った。今週いっぱいイゴールさんもネルソン氏もいないから、勢い自分にお鉢が回ってくる。  どうせ昨日の続きだろうと思っていたら果たしてそうだった。◯◯の件について、資料はあるかと云う。印刷して渡したら「字が小さくてよくわからない」と云う。それ以上はどうしようもないから黙っていたら、自分が聞いてどうなるものでもない大きな話を始めた。