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百卑呂シ言行録

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日常を切り出して再構築したもの。
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2023年6月の記事一覧

におい(2023/06/29)

 3時半頃目覚めたら、随分雨が降っていた。雷も鳴っているようだった。  よほど今日の出張は止そうかと思ったけれど、そういうわけにもいかないから渋々出発した。  現地は晴れていた。傘がいらないのはありがたいが、鞄が重いには閉口した。すぐにじっとり汗をかいた。ただしこれは使わないものまで色々持ち歩いているのが原因だから、誰にも文句は云えないだろう。  ただでさえ暑いところへ重い鞄を持って歩くのだからいけない。ものの数分で汗だくになって、不快なにおいが気になりだした。 ※  

背負う(2023/06/28)

 朝目覚めた後、一瞬目を閉じたら30分経過していた。大いに驚いた。高校時代にもこんなことがあったのを思い出した。夜、布団に入って数秒目を閉じたら、朝になっていたのである。 ※  午前中、ウェブでセミナーを受講した。自分の席でイヤホンを着けて聴いていたら、普通にあちこちから色んな用件で話しかけられた。おかげで何も頭に入らず、講師が予想より歳を食っていたことぐらいしか覚えていない。これからは面倒でも会議室へ移動することに決めた。 ※  明日・明後日と出張で、特に明後日は打

秘密の金(2023/06/27)

 午前中、ネルソン氏とトミーと部内ミーティングを行なった。ネルソン氏が存外アグレッシブな案を出して強硬に推して来たからちょっと驚いた。  その案を進めるには自分の担当先で調整が必要だが、上手くいけば随分大きな成果につながる。自分は畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)ではないから、嫌味と皮肉を思う様浴びせかける代わりに、「背に腹は代えられないのだから仕方がない」と言って、ネルソン案を承諾した。  背に腹は代えられない、と今日だけで4回言った。 ※  帰宅すると義父母が来てい

喫煙者(2023/06/26)

 出勤途中、信号待ちで前に停まっている車から、火がついたままの煙草が転がってきた。大きく会社名が書かれた車なのによくやるものだと感心した。  ちょっと気になって後から調べてみたら、「この会社の運転手は運転マナーが最悪だ」というようなコメントがいくつか散見された。大きな会社ではないようだから同一人物か、あるいは一人親方なのかもしれない。  ついでに当該企業のウェブサイトから連絡しておいたが、これはきっと余計なお世話だったろう。 ※  喫煙をやめて久しいが、最初に煙草とライタ

虫を殺す、中2(2023/06/25)

 未明に足がかゆくて目が覚めた。寝室に蚊がいるらしい。  時計を見たら2時半である。我慢できないレベルのかゆさではないし、蚊も満足すればそれ以上の吸血は遠慮するだろうからこのまま寝ていようかと思ったが、どうも段々にかゆさが増してくるようであったから結局起きて殺虫剤を取りに行った。  朝起きたらそこら中に小さな羽虫が死んでいて、随分うんざりした。 ※  午後から妻が出かけ、自分は『内田百閒全集』の続きを読んだ。娘はアニメの録画を観ていた。  何だか知らないが、アイドルが子供

メルヘン夫をやり過ごす(2023/06/24)

 朝食後、床屋へ行くことにした。先月行きそびれていたから頭髪が随分伸びて、破戒僧みたいになっていたのである。  行きつけの床屋はショッピングセンターの中にある。順番を待っている間――コロナ騒動以来、店の外で待たされる――に、メルヘンさんの夫とメルヘン父が目の前を通った。幸いこちらには気付いていないようだったから、こっちも声はかけずにおいた。  帰宅すると妻子は出掛けていたから、ベランダでうさぎを遊ばせながら読書をした。  内田百閒全集の第四巻が面白い。大正〜昭和初期の人々の

饅頭、密命、血(2023/06/23)

 昨日のうちにすっかり回復したので、何事もなかったように出社した。  10時過ぎに総務のフグ田さんが事務所で饅頭を配りだした。昨日来社した得意先の手土産なんだそうだ。 「体調大丈夫なら食べてくださいね。うふふふふ」と言って置いていった。本物のサザエさんか、と云いたくなった。  一通り配って数個残ったからと、もう一個くれた。一個はすぐに食べて、もう一個は後に取っておいた。美味い饅頭だった。  イゴールさんから云われていた件について、畜山にそれとなく裏を取った。そもそも自分と

死地、記憶(2023/06/22)

 出社してまもなく、腹がじわじわ痛くなった。トイレに行ったが捗々しい成果は得られない。そうしてなおなお痛くなってきて再びトイレに入ったが、やっぱり状況は変わらない。  そのうちに痛みは、脂汗が滲んで吐き気もするほどのレベルになった。鏡の中で顔が真っ白になっているし、とても仕事どころではないから、少し痛みが引いたところでイゴールさんにそう云って早退した。  帰りに二度ばかり波が来て、途中にあるコンビニとショッピングセンターで全ての決着をつけた。家に着く時分には何事もなかったよう

薄桃色、チェシャ猫(2023/06/21)

 朝、弁当用におろし金で大根サラダを作っていて左手の親指を切った。  傷はごく浅いが、血がじわじわ滲んでくる。時間がないからそのままシャッシャッとおろし続けたら、薄桃色の大根サラダが出来上がった。  自分一人が食うやつなのだから血が混じったって問題はないだろうと思っていたが、こうして見るといささか気持ちが悪い。昼まで時間を置いたらもっと気持ち悪く感ぜられて、食えたものではなくなるに違いない。  とりあえず水で流したら白くなったから、安心して持って行った。 ※  妻が起きて

狐狸に化かされる(2023/06/19)

 朝、家を出ようと思ったら鍵がない。ズボン、ジャケット、シャツの胸ポケットまで探ったが入っていない。  さては昨晩帰宅した時に財布などと合わせてテーブルにでも置いたかと、部屋の中まで戻って見たがやはりない。  妻が家にいるのだからこのまま出勤したって別段問題はないけれど、鍵を失くしたままではいかにも気分が悪い。1日中鍵の所在を気にしながらでは、仕事などできるものではない。  ああ困った、くっそ、一体どこに鍵置いたんだよ、なめんなよ、とイラつきながら右手に持っているものを見

罠、図書館(2023/06/18)

 午前中、娘の勉強を見てやった。 ※ 「先に○○した方の勝ち」という遊びを、娘が幼い頃から一緒にやっている。いつから始めたかもう判然としないが、元はなかなか寝ようとしないのを「先に布団に入った方の勝ち」とやり始めたように思う。  時折「先に○○した方の負け」という引っ掛けパターンも使うから、近頃は娘も警戒するようになった。  今日もそのパターンで、「先に『きょー!』って言った方の負け」とやったが、娘は黙って宿題を続ける。  少し間を置いて「あれ、そういえば父の日っていつだ

休日(2023/06/17)

 朝、踊りの稽古に娘と義母を送って行ったら、稽古場の公民館に誰もいない。おまけに鍵がかかっている。  鍵を管理しているおばさんが近所に住んでいるからと、義母が訪ねて行った。自分と娘はその家の前に車を停めて待っていたのだけれど、義母は行ったきりで一向に戻らない。その内にうとうとしてしまった。  ふと気付いたら、管理人のおばさんがわざわざ出て来て頭を下げていた。 「すみませんでしたね」と頻りに頭を下げるものだから、何、謝ってもらうようなことではありませんよと慌てて云った。  

同じ根っこ(2023/06/15)

 うさぎを部屋で遊ばせている間に壁のカドを齧ったらしく、遊ばせるなら目を離さないでと妻からクレームがついた。  狭いケージの中でずっと丸まっているのは可哀想だから極力自由に跳び回らせてやりたいと思うが、それをずっと見ているようではこちらが大変だ。気の毒だが、もう部屋で遊ばせるのは止そうと思った。 ※  出社すると社長から呼び出しがあって、昨日のジョンソンさんとの商談について訊かれた。  一通り説明したら、「携帯の番号はどうなった?」と言う。後でメールしておくと言っていた旨

見透かし(2023/06/14)

 社長に、今日ジョンソンさんと商談すると云ったら「ジョンソンて、あのジョンソンか?」と驚いた。ジョンソンさんは重要な得意先で取引開始時に担当だった人だから社長も知っているのである。 「そのジョンソンさんです」 「あいつ、今は何をしているんだ?」 「〇〇業界へ転職して、うちへコンタクトしてきたのですよ」 「〇〇屋か。ジョンソンに電話番号を聞いておいてくれ」  この人はよその社員をつらまえて「あいつ」と言ったり、自身の部下みたいに呼び捨てる——部下だから呼び捨てでいいというも