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山口県周防大島出身の民俗学者の宮本常一さんは、日本中を歩いてまわって、その土地土地で出会った「ふつうの」人々のストーリーを書き留め続けた方です。ご興味のある方は、宮本さんご本人の著作に加えて、こちらの本もおススメです。話題にもなった(?)渋沢栄一さんのお孫さんである敬三さんのかっこいい生き方も同時に学べます。
この本で紹介されているのでそのまま書き写しますが、司馬遼太郎さんは、「私の三冊」という岩波文庫のアンケートで、宮本常一さんの代表作『忘れられた日本人』(岩波文庫)をあげて、こうおっしゃっているそうです。
≪ 宮本さんは、地面を空気のように動きながら、歩いて、歩き去りました。日本の人と山河をこの人ほどたしかな目で見た人はすくないと思います。≫
そんな風に日本国中を歩いて生活を見てまわった宮本常一さんのご著書、『民俗学の旅』(講談社学術文庫)で、彼が故郷の周防大島を出るとのを見送るお父さんが伝えた「十か条」が紹介されています。お父さんは時代や家庭の事情で小学校を出ていないそうですが、芯の強い、達観した、示唆に富んだ方だったようにうかがえます。十の教えの一つはこういうものです。
≪村でも町でも新しく訪ねていったところは必ず高いところへ登ってみよ。そして方向を知り、目立つものを見よ。(中略)山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならず行ってみることだ。高い所でよく見ておいたら道にまようことはほとんどない。≫
わたしはなぜか、宮本さんに憧れるためなのか、新しい土地にやってくるたびに、この、宮本さんのお父さんの十か条をよく思い出します。そして、できるだけ高い所へ行ってみよう(そして、ほかの教訓がいうように、その土地の名物や料理を食べてみよう、駅で乗り降りする人々の服装や靴をよく見てみよう、できるだけ歩いてみよう)、と心がけています。
さて、ハノイでも、ようやく「高い所」にやってきました!また一つ今年したかった「夢」成就です。街中にある、ロッテデパートビルの64階にある展望台にやってきました(突然舞台が現実的になりますが)。
一部足元がガラス張りになっていて、怖いやら楽しいやら。住んでいるエリアも彼方に見えました。ハノイは空気悪いのでお天気の悪さとも重なってかすんでいたのが残念ですが、それでも視界が広がってよいものです。普段自分たちが歩いている通りやビルの並びなどを、頭の中で俯瞰で捉えられるのは貴重な感覚です。
VR(Virtual Reality)によるハノイツアーもやっていて、挑戦しましたがやや乗り物酔いしそうになりました(苦笑)。
さて、宮本さんのお父さんの教訓、すべてぐっときますが、9条と10条の締め方がまた励まされます。
≪自分でよいと思ったことはやってみよ。それで失敗したからといって親は責めはしない。≫
≪人の見のこしたものを見るようにせよ。そのなかにいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。≫
自分でよいと思ったことを印にして、自分の選んだ道を、自信をもって地道に少しずつ歩いていきましょう。そしてたまに自分のいる土地を上空から見下ろしてみると、自分や自分の抱える課題や悩みのちっぽけさにも改めて気づけて気楽になって、また地道に歩みを進める気持ちが生まれる気がします。
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