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いっぱい食べる、君が好き

「いっぱい食べる君が好き」
この歌、言い得て妙…いや、「歌い得て妙」だなあと、思う。

「んむんぐ…んぐっ……、うん!美味しい!」
お雑煮の餅に大きくかぶりつく姿も、

「あ、これも食べちゃおうかなぁ」
色とりどりのかまぼこや桜の形の人参を箸で摘む仕草も、

「んんん…ローストチキンとサラミ、どっちから行こう…」
こうして、美味しいお肉を前に悩む仕草も。

すべてが、こうも愛おしいのだから。

「……よし、ローストチキンからかな。…ってあれ、君は食べないの?」

「えっ?…ああ、食べますとも!もちろん」

「そうかい?考え事してたら、僕が全部食べちゃうからね」

この人なら、あながち嘘とも思えない。
だってこの間、朝食のときもそうだったから。

ぼうっとテレビのショートアニメを観てたら、ポンカンジャムが空っぽになってて驚いたんだっけ。
ヨーグルトに乗せようと密かに狙ってたのに。

でも、あんなに美味しそうに食べる姿を見てたら、つい許してしまうんだよなぁ。
「君がぽけっとしてるから悪いんだよ?」なんて言われたのも、「気をつけまーす」なんて一言でつい水に流してしまって。

中村さんからよく「君は福永に甘すぎるんじゃない?」なんて言われるけど、そんなの百も承知だ。
惚れた弱みってやつだから。

「………ねえ、おーい!」

「おわっ!あ、すみません。どうしました?」

「ローストチキン、最後の一切れだけど食べてもいいかい?」

ハッとして皿を見れば、ローストチキンが消し飛んでいる。
大きめの角皿いっぱいにあったはずなのに、すごい速さだ。

「……どうしたの?お腹痛い?」

「いや、そうじゃなくてこう…つい、見惚れたり考えたりしてまして」

「何さ、見惚れてたって」

「福永せんせの食べっぷりですよ。なんて言うかこう…美味しそうに食べるの、素敵だなぁって」

「そう?…君の食べる姿も、すごく綺麗で美味しそうで、見惚れちゃうけどね」

あ、何だか嬉しそう。と思ってたら突然の不意打ち。
右ストレートの甘い言葉に思わず照れてしまう。
お酒を飲んだ訳でもないのに、顔がほんのり熱くなる。

「なんなら、君が食べる姿を見て、僕もあれ食べようこれ食べようって思ったりするし。ローストチキンだってそうだよ?……ってことで話を戻すけど、最後の一口もらっていいかい?」

ああ、そんなこと言われたら、つい譲りたくなる。
惚れた弱みか、これもまた。

「もちろん!美味しく、食べちゃってください」
「やった!じゃあ、遠慮なく。いただきまーす!」

美味しそうに大きく口を開ける姿。
チキンを噛み締める横顔。美味しさに緩む頬。

ああ、きっとこういうときに、あの歌も思い浮かんだんだろうな。
そんなことを思いながら、心の中にメロディを流して、私もロースハムとえびコロッケに箸を伸ばす。

" いっぱい食べる君が好き 大きなひとくち "
" 我慢なんて、らしくないよ いっぱい食べる君が好き "

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