見出し画像

明日を研ぎ澄ましながら

じゃっ、じゃっ、じゃくじゃく。
じゃっ、じゃく、じゃっじゃっ。

ちょっと力強く、回転回転、反回転。

福永せんせが、お風呂を済ませている間。
その間に、明日の朝のお米を研ぐのが私の日課だ。

リズミカルに、ちょっとだけ力を入れて、じゃくじゃくと。
しばらく研いだら、今度はお水を入れてぐるぐると。

そしてまたお水を捨てて、じゃくじゃくじゃく。
そんなことを何度か繰り返す。

静かで穏やかな、不思議な時間。
じゃくじゃくという音のなか、私まで研ぎ澄まされるのか
色々思い出したりもする。

そういや、明日はまた暑くなるって言ってたっけ。
麦茶、作っとかないとなぁ。

あ、でもこの間フルーツティー作って入れてたら
「これ、美味しいね!何だい?」って喜んでくれてたっけ。

美味しい抽出方法、確かノートに書いてたっけか。
あれ見ながらまた作っとこうっと。

じゃく、じゃくじゃく。
じゃっじゃか、じゃくじゃく。

………そうだ、果物も買ってきて冷やしておこうか。
ゴールドキウイと、オレンジ。

福永せんせ、どっちもお気に入りだったし。
こないだなんか、キウイは争奪戦になったもんなぁ。

ザアッ。ぐるぐる、さらさら。

もう暑くなるのかぁ…
今年は何月頃に追分入りかな?

持っていくお洋服とか早めに選んでおいて……
今年はスケッチブックと、色鉛筆も持っていくんだ。

それと、カメラも。
こないだ買ったデジイチ。あれ持っていこう。

福永せんせは今年もフィルムカメラ持ってくやろし。
一緒に写真撮ったり…カメラ交換っこしてもいいなぁ。

じゃばっ、ざぁ、さらさら…。

大家さんにお話…は、分かってくださってるからいいか。
あ、会社に早いとこリモート申請出しておかないと。

申請だけ忘れなきゃええよって、つくづく恵まれた職場だ。
おかげで毎年、大切な時間を、福永せんせと過ごせてる。

追分の写真、チームチャットに送っておこうかな?
毎年送り出してくれるお礼も兼ねて。

「………ふぅ、」

そうこう考えていると、釜の水がだいぶ澄んでいるのに気づく。
と、かちゃりとお風呂場のドアが開く音。
今はおそらくお着替え中かな。

「うぉっし、あとひと踏ん張り!」

釜の中に水を張る。今日は3号だから、3の目盛り。
ぴったりに張れるかで、明日が決まる。

実は1回だけ、水を少し入れすぎたことがあった。
福永せんせは「大丈夫だよ」と言ってくれたけど、やっぱり私は気にしてしまう。

愛おしい人なんだ。
私にできる完璧で、胃を満たしたいってなるじゃないか。

「………、よし!勝った!」

真剣勝負、今日も勝ち。
釜を軽く拭いて炊飯器に入れ、予約ボタンとスイッチを押す。

ふう、やっと終わった。
そして、

「お待たせ、風呂あがったよ」

私を呼ぶ、福永せんせのさっぱりした笑顔と声。

「今日も、お米研いでくれてありがとうね」
「いえいえ!明日も美味しいご飯、一緒に食べたいですから」

あたたかな言葉のご褒美も添えて、
私の日課は、今日も終わる。

「嬉しいこと言ってくれるなぁ、もう」
「思ってることそのまま言っただけですよ。せんせ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?