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ある朝のはなし

朝が、きた。
太陽も寝坊する、そんな冬の日に、朝が来た。

太陽もどうやら出てきたようで、高く澄んだ空から柔らかい陽射しが私と福永せんせの顔にそっと差している。

「福永せんせ、朝ですよ」

頬をふに、と指で突けば

「んぅ…もう少しだけ………」

そんな寝ぼけた声が返ってくる。

ちょっと眉を寄せて、布団を引き寄せる手。
やだやだと首を振る顔。
子どもみたいで可愛いなぁ、なんて、つい思ってしまう。

「もう少しですか?」

「うん……もう少し………」

「分かりました、じゃああともう少しですね」

「うん……ありがとねぇ」

ぎゅっと抱き寄せられる身体。
彼の唇が、軽く額に触れる。

不思議と、心臓が高鳴る。
口付けは、何度もしている筈なのに。

柔らかくて、あたたかくて。やわい息も、ふわっと感じて。
唇が触れたところに、ほんのりと火が灯ってるみたいだ。

「……せんせ?」

せんせは既に夢の中なのか、規則正しい寝息が聞こえるだけ。

「ねえ、せんせ……」

なんだか、ずるい。
私ばかりどきどきしてるみたいで。

「……っ、せんせ」
「んぅ……もう、うるさい」

ぐっと引き寄せられて、唇と唇が重なる。
ほんの少しかさついた、でも柔らかくて優しい唇。

軽く押し当てるように。
言葉を、そっと封じるように。

「………愛してる」
「から、あとちょっとだけ………」

そう言って、またぎゅぅっと、抱きしめられる。
強く、でも優しく。まるで照れ隠しみたいに。

「………ずるいですよ、せんせ」

あたたかな布団のなか、そっと呟いて。
福永せんせの背中に、そっと腕を回した。

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