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外房線

千葉駅周辺はかつて住んでいた街ということもあって、若干の土地勘がある。
しかし、駅構内となるとあまり馴染みがない。特に県の内陸部へ向かうホームは上がった事すらなかった。
この日、初めて外房線に乗った。
ぼくは、初めて乗る電車ではできるだけ眠らないようにしている。
かと言って、到着までする事もない。
仕事を始めたばかりの頃は小さなメモ帳にクロッキーをしていたが、次第にそれもやらなくなり、結局子供のように窓を眺めるだけに落ち着いた。
この日の外房線でも、進行方向左側の車窓を眺めていた。
どんな路線であれ、窓から見える景色は大抵コンクリートの擁壁か、深々とした藪かのどちらかで、特別何かを期待して見ているわけではない。
ところがこの日は、トンネルを抜けた先でぱっと視界が開けた。
晴天の下、美しい丘陵に囲まれた一角に畑が広がり、畦道沿いに小さな小屋がある。
「日本の原風景」とでも題名をつけて飾っておけそうな風景だ。
もちろん、旅先などでこうした景勝地に出会うことはある。しかし、それと同じような景色が18年間住んでいた町から鈍行で十数分走ったところに何の脈絡もなく転がるように存在していることに衝撃を覚えた。
千葉駅といえば、関東の地方都市でも比較的大きな部類に入るが、こんなにも都市と田園が近い場所にあるとは思っていなかったのだ。
かつてのホームタウンについて、つくづく何も知らなかった事を思い知らされた。土地勘があるとさえ思っていた場所である。
ぼくが勝手に感じる目眩をよそに、外房線の車窓はひたすら絶景をパノラマで切り取り続けていた。

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