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#2 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

「昨日、ネットが不通になったあと警察が来て、うちに原因があるんじゃないかって」
自治体はネットワーク障害が起きると、警察への通報とログの提出を行う。
数年前、事象の重大さから法整備がなされ、いわゆる「インターネット接続防止法」が成立した。以降、イントラネットに属するクライアントで直接インターネットに接続すると刑事罰に問われるようになった。
「心当たりでもあるのか?」
「インターネット用のタブレットを間違えて家のWifiに繋いじゃったんだ。すぐ電源を落としたんだけど」
「マジかよ……」
コウタは頭を抱えた。
インターネットに接続するクライアントは必ずツナミの汚染を受ける。
汚染されたデバイスをそのままイントラネットに接続すると、ネットワーク内全ての機器が汚染されてしまう。
そのため、タカシが持ち込んだタブレットのように「インターネット専用デバイス」を用意して通常利用するデバイスとは分けるのが普通で、最近はそもそもインターネット用デバイスを持っていない人も増えている。
「接続防止法違反だと、確か懲役だよな」
「最高で五年だったかな……」
「ぼく刑務所なんてイヤだよう」
ミノルはとうとう泣き出した。
「そういえばススム、見せたいものってなんだよ」
タカシは話題を逸らした。
「そうそう、これなんだけどさ」
ススムはラップトップを取り出して、廃材でできたテーブルに置いた。
「最近ツナミのソースコードを見てるんだけど、ここ、読んでみてよ」
ラップトップのモニタには、C言語らしきソースの一部が表示されている。
「読みにくいコードだなぁ。やっぱりソース自体が機械生成されてるんだな」
コウタは眉間に皺を寄せながら画面を見ている。
「そうなんだけどさ、ここの処理、動くは動くけど、ちょっとおかしいだろ?」
「メモリの話か?」
「そうそう、こっちが生成してる側のソースなんだけど、多分、この部分のループに問題がありそうなんだ」
コウタとススムは熱心に議論しながらソースコードをスクロールしているが、タカシは途中からついて行けなくなった。
「つまり、どういうこと?」
タカシはしびれを切らせて言った。
コウタとススムは顔を見合わせると、二人でニヤリと笑った。
「ミノルを助けてやれるかもしれないってことさ」
コウタが言った。
「え?」
ミノルが涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「タカシ、接続防止法はどういう法律だっけ」
ススムが聞いた。
タカシはネットワーク関連の法律に詳しい。
「何人も、市区町村が指定した通信ネットワークに接続された電子機器からインターネットに接続してはならない。規定に違反した者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。ただし」
「ただし?」
「故意でなく、かつ、当該接続を原因とするネットワーク障害が発生しなかったか、もしくは48時間以内に障害が解消した場合、この限りではない」
「ってことは?」
「あと24時間以内にT町のネットワークを使えるようにすれば、ミノルは罪に問われないのさ」
コウタが言葉を継いだ。
「でも、24時間って今日中ってことでしょ?ぼくらに何ができるのかな」
ミノルはまた泣きそうになっている。
ススムはずれて下がったメガネを直して、改めて画面を全員に見せた。
「このソースコードに、まだ修正されてないバグがありそうなんだ。今ならそこを突いて、ネットワークからツナミを削除できるかもしれない」
「要するに、ツナミ相手にゼロデイ攻撃をするってことだな」
コウタは身を乗り出している。すっかり乗り気だ。
「やろうぜ。小学校最後の思い出作りだ」
「面白そうだね、ミノルのためにもなるし」
タカシも賛成した。
「で、実際どうするかなんだけど」
ススムは脚のないホワイトボードにペンを走らせた。
(続く)

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