見出し画像

短編集③

タイムカプセルのうた

感情論で恋をしようよ 時速120kmで
彗星の真下でぼくたちは小指を絡め合った
口約束にも満たない、ちいさな、ちいさな、ぼくらの反逆
星空のカーテンに包まれて、瞼の裏の宇宙を泳いだ
君の髪の流れ、瞬きの速度はコマ送り
潜在意識の裏に紐付いた有りもしない君との夢は銀河の果てのタイムカプセル
宇宙の中のちいさな海で、ぼくたちはまた会えると信じて疑わなかった
さよならに代わる言葉を、口付けを、抱き締めた君は月の裏側で良く眠った


瓦落多のうた

ひとりで泣いていた ぼくは哀しかった どうしたって救いが無いこの世界で息をしていること 貴方も同じ様に淋しいこと 
ずっと泣いていた ぼくは淋しかった 他者の認識以外で己の存在価値を見い出せないこと 拭っても拭い切れない慢性的な希死念慮に苛まれていること
ぼくには、かみさまが見えませんでした
誰かを大切にしたいと思うことも、誰かに大切に想って貰うことも、ぼくにとっては枷でしかなかった
貴方が居ればそれだけで良かったって、そんな嘘、吐かないで
「ほんとう」にならない言葉にわかりやすく傷付いてしまうから、ぼくはずっと触れられないまま、きみは蝶々となって軽々世界を跨ぐ
バタフライエフェクトなんて、恐ろしい現象を巻き起こして、きみの離れた遠い場所で、ぼくのこころはがらくたになって


 線香花火のうた

緩やかに燃焼される煙草といのちはこの星の瞬き
屋根の上に寝転び空を仰いだ
まだ肌寒い夜 夏用の香水は、1年前の記憶を追体験させる 蘇る既視感と、抉られるこころの痛い所を追い酒で誤魔化す
月がわたしを見て嗤うから、なんだか泣きたくなったんだ
きみと探した夏の大三角形は、雲から垣間見えてわかりやすくちかちかする 良く知りもしない星の名前を連ねて、宇宙の話をしようよ
磯の香りと小波は夏の訪れ 淋しく点滅する街灯はわたしの哀しみ 線香花火の眩さはこの星の寿命だった
蝶にも蛾にもなれなかった蛹の事を、わたしたちだけは覚えていたい やさしくなれなかったわたしの事を、なかったことにしないでね
嘘しか吐けないわたしだけど、君が良く眠れたらと祈ったことだけは、ほんとうだったから

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?