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私たちの世代の本当の問題はコロナではないかもしれない、という話

「これから」の問題について語る二冊

成毛眞氏の『アフターコロナの生存戦略』という本を読んでいました。

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この本では、主に経済活動の観点から、「これからの私たちはどういう人生設計をしていくべきか」が語られています。

この本を読んで私が思い出したのは、コロナ前に書かれた『LIFE SHIFT』という本です。

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面白いことに、『アフターコロナの生存戦略』で提案されている「生存戦略」は、『LIFE SHIFT』が提起する「100年時代の人生戦略」と非常に多くの共通点がありました。

ある意味では「私たち個人が対策を立てるべき人生の問題は、コロナウイルス感染症そのものではない」とも言えますし、「コロナ禍は『これからの人生の問題』を『いまの問題』として連れてきた」という見方もできるかもしれません。

これについて、二つの本の共通点を軸にまとめてみたいと思います。


「一つの会社で定年まで真面目に働く」が非現実的になった

日本では、少し前まで「学校を出たら会社に就職し、その会社で定年まで勤め上げ、定年になったら退職金と年金で余生を送る」という人生プランがスタンダードでした。(少なくとも、そう見なされていました)

しかし、誰もが気付いているように、このライフコースは「難度は高く、旨味は少なく」なってきています。

以下、その理由を3つに分けて紹介しますが、そのうち2つは「コロナ禍で顕在化したが、以前から存在していたトレンドの延長にある問題」であり、3つ目は「コロナとは無関係の問題」です。


「一つの会社にしがみつけない」問題

まず、「終身雇用制」と「年功序列制」が一般的でなくなってきたこと。

これはコロナショックとは関係なく、日本がバブル崩壊以降ずっと強めてきたトレンドですね。

今では役所ですら「正規雇用労働者を減らして非正規雇用を増やす」という形で、このトレンドに追随するようになっています。

というわけで、雇用システムの変革によって「一つの会社に勤続することが難しくなった」というのが一つ目。


「しがみついた会社が潰れる」問題

そして、「終身雇用で採用されれば安泰」というわけでもありません。

ご存知のように、「コロナショック」によって多くの会社がバタバタと倒れています。

社会の変動が業界単位の存亡を左右してしまっている今、「老舗」や「大手」といえどもお構いなしに不況や倒産に襲われるリスクがあります。


しかし、実は「企業の短命化」はコロナ以前から進んでいた現象でした。

エール大学のリチャード・フォスターによれば、1920年代、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500を構成する企業の会社存続年数は、平均67年だった。2013年、この年数は15年に短縮している。

リンダ・グラットン; アンドリュー・スコット. LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略. 東洋経済新報社.

産業の加速によって、一つ一つの会社が生まれて潰れていく速度もどんどん加速しているわけですね。

引用されているのはアメリカの市場のデータですが、日本もこの世界的トレンドに逆行することは難しいと思われます。


人間の平均寿命は延びているのに、企業の平均寿命は短くなっている。

というわけで、「一つの会社に勤続したところで、その会社自体が長生きする可能性が低い」というのが第二のハードルです。


「定年までしがみつけても『上がり』じゃない」問題

このように「ハードルが高くなっている」ことに加え、「ハードルを突破して得られるメリットが目減りしている」という点も見逃せません。

2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される。

リンダ・グラットン; アンドリュー・スコット. LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略. 東洋経済新報社.

長生きというのはリスクになってしまう時代が到来した

成毛 眞. アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト. 株式会社KADOKAWA.

なぜ急に長生きの話をしているかというと、「長生きの経済的リスク」こそが「一社に定年まで勤めるライフコースに対する逆風」だからです。


「60歳で定年退職して75歳で死ぬ」時代なら、15年間くらいは結構多くの人が年金と退職金で何とかやっていけました。

「65歳で定年退職して95歳で死ぬ」時代となると、30年を退職金だけでまかなうことは現実的ではありません。その上、私たちの世代は年金も当てに出来ません。

現実的には、私たちの世代の多くの人々は65歳を過ぎても何らかの形で働くことになるでしょう。

一つの会社に定年まで勤めても、結局その後に再就職先を探さなければならないとしたら、何のために一途に働いてきたのか分かりません。

むしろ、定年を過ぎて再就職するとなると、「働き方が一つの会社に最適化されてしまっている」ことはデメリットにさえなります。


以上のように見ていくと、いずれの問題も「コロナ以前」から続いてきたトレンドの延長線にあることが分かります。

「コロナショック」が、「一つの会社で定年まで勤め上げ、国と会社に老後まで面倒を見てもらう」というライフコースを一層ハードにしたことは確かですが、実はそのコースはコロナ以前から既に「難易度は高く」「達成報酬は少なく」する方向へと弱体化が進んでいたわけです。


「ひとすじ」ではない人生

「じゃあどうすればいいの」という話。

成毛氏は書中で以下のような提案をしています。

  • 軽い気持ちで転職してみる

  • 趣味を増やしてどんどん遊ぶ

  • 起業する

  • 積極的に人脈を作る


そして『LIFE SHIFT』では、「新しいライフステージ」として、「エクスプローラー」「インディペンデントプロデューサー」「ポートフォリオワーカー」という独自の概念化を行っています。

  • エクスプローラー:色々な経験をして、見識と人脈を広げる

  • インディペンデントプロデューサー:自由に実験的な起業をする

  • ポートフォリオワーカー:経験や人脈を活かして複数の活動を運用する

『LIFE SHIFT』というタイトルは、従来の「3ステージ(教育・仕事・老後)型の人生」からの脱却を指すものですが、新たな人生を構築するためには「新しいライフステージ」を使いこなすことが重要である、という主張が核となっています。


こうして見ると、一つは「アフターコロナ」についての本であり、もう一つは「コロナ前」に書かれた本であるにも関わらず、その生存戦略の要点は非常に共通していることが分かります。


「遊び」と「人間関係」の価値

「先行きの暗い社会でどうすれば生き残れるか」というキャリア問題において、二冊の本は(厳しい言い方をすれば)「答え」を出していません。

「『正解』を選べば安泰って時代じゃないから、広く張って柔軟に戦略を切り替えて行こうね」というのが結論なので、仕方ないと言えば仕方ないのですが……。


ただ、これらの二冊がキャリア問題と並列して、「遊ぶこと」「良好な人間関係を築くこと」の価値を強調している点は特筆に値すると思います。

これらが重要である理由は、一つには「それが新たなビジネスになるかもしれないから」ですが、もっと根本的な点として「人生が長くなってるんだから、『仕事以外の楽しいもの』をたくさん見つけとかなきゃ寂しいでしょ」という考え方が提示されているのが非常に良いと思いました。

言ってしまえば素朴な価値観ですが、「現代社会の生存戦略」を語る上でここにちゃんと着目している人ってあまりいない印象があったので、一周回って逆に新鮮に感じてしまいました。


結局、多くの人は「お金持ちになる」ことが最終目標ではなく、「豊かに生きる」ことの方が大きなゴールとして存在しているわけですから、「お金の豊かさ」と「お金で買えない豊かさ」の両立に失敗したらそれは「成功」じゃないんですよね。


「楽しむ」ことを忘れたら、ゲームの「真の勝者」にはなりえない

私たち個人個人の経済活動は、おおまかに「決まった量のお金を取り合うゲーム」をプレイしていると言えるかもしれません。

その最終目標的な価値を「より多くのお金を獲得すること」に設定するならば、トータルの「勝ち」と同量の「負け」が必ず発生することになります。「みんなが価値を手に入れる」ことはできません。

しかし、「勝ったり負けたりしながら、チームメイトや試合相手とゲームを楽しむこと」を「真の価値」とするならば、私たちは必ずしも「価値を奪い合う」必要は無くなるかもしれません。プレイヤー全員で、「楽しさ」という価値を分け合える可能性があります。


変わりつつある社会で、私たちはどのように「楽しみ」を見つけていくか。どのように「友人」を築いていくか。

コロナショックはこの問題をより深刻化させ、顕在化させたかもしれないけれど、結局そこで浮き彫りになってくる問題とは「普遍的で古典的な人間の悩み」なのではないか……などと考えた休日でした。


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