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ハンドボールくらいの大きさのおにぎりを放課後まで食べ続けていた同級生の話

学校は面白い。
公立であれば、ただ「そのへんに住んでいる」という理由だけで同じ年の人間が集まってくる。名前や性格はもちろんだが、家庭環境から何から何まで違うやつもいたりする。
高校になると学力という区切りは出てくるが、そうはいっても大体同じような地域に住んでいる人間が高校にも集まるものだ。

そのなかでも、なんかミステリアスなやつというのは学年にひとりふたりくらいいるものである。

私の高校の時の同級生に「サカグチ」(仮名)というやつがいた。
サカグチは私が学校で出会ったひとのなかでも、なかなかミステリアスだったように思う。

彼には何個か、特筆すべき点があった。

まず、お弁当で持ってくるおにぎりが常軌を逸したデカさだったことだ。
ハンドボールくらいのでかさのおにぎりを毎日持ってきて、もしゃもしゃと食っていた。
きっと毎朝お母さんが握っているのだろうし、もしかしたら変わっているのはこの常軌を逸したデカさのおにぎりを毎朝つくり、そして息子に持たせ続けているお母さんなのではあるまいか、という気もしなくもないのだが、しかし同時にこの現状に対してサカグチは別段疑問を持つこともなく、さも手ごろなサイズを食べているかのような様子でもしゃもしゃとハンドボールのようなおにぎりを食べているのである。

そしておにぎりがでかいくせに、サカグチは驚くほど食べるのが遅い。
極めてゆっくりと咀嚼をしている(というか口に運ぶペースが遅すぎるし量も少ない)ため、昼休みはおろか、放課後にサカグチが昼飯を食っているという様子を何度か見たことがある。「夏場とかおにぎり傷まないのか」と思ったこともしばしばだったが、彼は至極健康でマイペースにおにぎりをほおばっていた。
わたしも一度見かねて「そんなに食べるのが遅いなら小さいおにぎりを複数もってきたほうがいいんじゃないのか」みたいなことをサカグチにいったことがあったのだが、「そうだよねえ」とかいいながらも結局彼のおにぎりが小さくなることはなかった。
サカグチのおにぎりについてあれこれ文句を言うことは彼の逆鱗に触れてしまう行為なのかもしれないとひとり忖度し、それきりおにぎりの大きさや食べるペースをとがめることはなかった。

また、サカグチは陸上部なのだが、ほとんどアップをしないまま走り高跳びで1m70cmくらいを平気で跳んでしまう。
時間管理があまり上手ではないようで、よく陸上の大会のときに本番のぎりぎりに到着してしまうということがあったらしい。当然ちゃんとアップをする時間もなくそのまま試技に入ることになるのだが、それでもひょいと都大会のラインとかを跳んでしまってあっという間に出場が決まるなんてこともあったという。そしてもちろん、足もやけに速いのである。

そして、極めつけなのだが、サカグチは実は「大学には進学したが卒業式にはでられなかった」生徒だった。
遅刻が多すぎたか何だったか理由は忘れたのだが、確かサカグチは卒業に必要な単位か出席日数か何かをそろえられなかったようで、私たちの卒業式を体育館の二階席から見ていたのである。
式の終わりに「あれ?!サカグチじゃん、なんで二階にいるの?」と尋ねると「いやー卒業できなかったんだよー」などとさも他人事かのごとく、のんきな様子である。
友人から聞くところによるとサカグチは大学には受かっていたらしく、となると「じゃあ大学いけないじゃん」みたいな話をしたら彼は「大検に受かったんだ」と誇らしげに語った。
大検を受けるのと普通に卒業するのだったら明らかに後者のほうが楽では…という気もしたのだが、そこはサカグチである。結果的に大学に行けるのであれば、サカグチにとっては何も問題はないのだ。

高校を卒業したきり、サカグチとは別段連絡を取ることもなく、かれこれ10年以上の月日が流れてしまった。
はて、サカグチは元気だろうか——あの日の常軌を逸したデカさのおにぎりをともにほおばりながら、この会わなかった日々の出来事を語らうことができたら、と願うばかりである。

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