群馬のハゲとの出会い〜意味のない合宿の話〜

暑い夏になると思い出すことがある。「合宿」の記憶だ。

往々にして合宿は憂鬱なものである。トレーニングが普段よりタフになりやすいというのはもちろんだが、食事や睡眠時間などまでいちいちコーチや顧問の目が光り、逃げ場のない環境に追いやられるからである。
小さい頃はイベントのようなかたちで楽しく乗り切れたりもするが、歳を重ねるとなかなかそうもいかないものである。
かたや、合宿を乗り切れば一つステップが上がったかのような感覚になり、普段の練習がしばらくは楽に感じたりスタミナ切れを起こしにくくなったりと良い効果も当然ある。

わたしも中学までは水泳、高校からはバレーボールをしていたので、当然の如く合宿に行っていた。
大体の合宿はわたしにとって大変ではあったものの先に述べたような意義のある合宿になった。

だが、一つ例外として「あの合宿はなんだったんだ?」というものがあった。
高二の時に行ったバレーボールの合宿である。

一年生の時は顧問が厳しかったこともあり大変タフな合宿になったのだが、幸か不幸か顧問が異動となり大人しい熊のような顧問になった。
新顧問は特に口出しもしない人だったのもあり、我々は年度初めからボランティアで来てくれていた大学生の指導を仰ぎつつ、練習を進めていた。

合宿に大学生が帯同できないということで、事前にある程度練習メニューを決めてから合宿に臨んだ。
ところが、いざ合宿場についてみると、宿のおっさんが頭にタオルを巻き始めたと思ったら合宿の練習に乗り込み、我々にあれやこれやと指導をし始めたのである。

当時群馬に行ったのもあり、おっさんのことを「群馬のハゲ」と私たちは裏で呼んでいた(というかわたしは群馬のハゲの本名を覚えていなかった)。
群馬のハゲ曰く「俺が教えたやつは春高に行っている」みたいなことを言っていたが、ならばもっと有名な学校で顧問でもやったほうがいいはずである。我々としても「そんなん言われても知らんがな」状態で勝手に指導を続けてくるので、やる気ゼロの合宿になった。

しかも群馬のハゲの暴走を新顧問が止めるでもなく静観するばかりである。そのまま合宿は進んでしまい、結局事前に決めた練習はほぼできないまま終わった。
合宿中には群馬のハゲからいろいろ教えてもらったものの、帰ってきてから誰も彼の教えを守らなかった。あの時間は一体なんだったのだろうと今でも思う。

これはそもそも論だが、信頼関係を作れていないハゲのおっさんに教えてもらったところで、相当なカリスマでもない限りは指導が効果を出すことはなかなかない。
同じことを言ったりやったりしても、当の教えられる側がやる気になるには、指導に先立つ信頼関係が必要になる。そのことを教えてくれたのは皮肉にも群馬のハゲであったのである。群馬のハゲに心からの感謝をーー!

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