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忘れたくて人と会う

岡田有希子というアイドルがいた。
「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」などの歌で知られるかわいらしいアイドルだったが、人気絶頂のある日に突如自ら飛び降り自殺をした。
いまでは考えられないことだが、一部の週刊誌には彼女が飛び降りたあとの遺体の写真が写っており、非常にショッキングな一枚である。
世間に与えた影響も非常に大きく、後追いの自殺をする人もいたそうだ。彼女の「ユッコ」という愛称を取って「ユッコ・シンドローム」という言葉も生まれた。

自ら命を絶つとき、要因が何なのかは人それぞれだ。そして「これだ」と特定できるものではない、という前提はもちろんあるのだが、思うに人が死を思う一つの要因に、強烈な「孤独」というものがあるのではないかと思う。

アイドルなどのスターは、多くの人からの関心や視線を集めているようにみえるが、その実、孤独な存在であると言われる。

アイドルではないにせよ、誰しもふとした瞬間に虚しさが心の中に去来するものだ。人生への虚無感を抱いたり、仕事の無意味さを感じたり、ただ同じことを繰り返す人生の儚さを思ったり、そんな瞬間にふと、死を思ったりすることもある。こんな虚無感にさいなまれるのは、たいがい一人になったときである。

「孤独は人を殺す」というのは奥さんがよく口にする言葉ではあるけれども、その通りだと思う。
孤独になると己の存在の小ささや、そこから生まれる空虚さに、おのずから目が向いてしまう。ひとは弱い生き物なのだと思う。

そんな虚しさが胸をかすめたときに、人は誰かとのつながりを求める。金がないのに飲んでみるのも、なんとなく集まってみるのも、LINEで連絡をしてみるのも、SNSでのつながりも、どれも人とのつながりを希求した結果だ。

人と喋ったり遊んだりしてつながっているときは、そんな虚しさを忘れることができる。そのつながりがプツンと切れると、孤独になって、そのうちに空虚になって、死を思う。

ちょっとしたぬくもりやよろこびを求めて人とつながることでなんだか晴れやかな気持ちになれるのなら、これほど簡単な己への処方箋はあるまい。
人間がつながりあうコミュニティとは、自分のなかに潜む「死を誘う手招き」から人の目を逸らすものなのだろうと思う。

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