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戦前製"3枚玉"の愉悦『Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4』

ライカのオールドレンズがきっかけで"レンズ沼"にハマってしまった私は「ライカのレンズ」が好きなのであって、他メーカーのレンズは全く無関心だった。

カメラを本格的に始めたいと思いキットレンズ付きミラーレスカメラを買ったものの、あまり面白く感じられず。一年足らずですべて売り払い、その元手でEPSON R-D1sという特異なカメラを買った私である。(笑)

つまるところ、レンジファインダーの楽しさを知ってしまった私は「Mマウントで距離計連動するレンズ」じゃないと買う気になれないのである。(このスタンスは今も変わらず。)

ライカのオールドレンズは基本的に全てMマウントで使える上、距離計もしっかり連動する。ズマール5cm f2や、ズマリット5cm f1.5など取っ替え引っ替え撮影を楽しんでいた。

ライカつながりのコミュニティでフォトウォークに参加することもしばしばあり、そこで知り合った方よりオススメ頂いたレンズに、最近ぞっこんなのである…。
「ライカレンズ以外は興味ない。」と防護壁を作っていた私(笑)の価値観が崩壊するキッカケとなったレンズといっても過言ではない。

M10-D と Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4

カール・ツァイス イエナ製 『トリオター 8.5cm f4』
コンタックス外爪マウントのレンズである。
シリアルを信ずるならば1937年製造のロット。
戦前製のレンズとは思えないほどに美しい外観を保っている。スラリと伸びた鏡胴の美しさたるや…もう既に、なんだかいい写真が撮れそうなイカしたデザインだと思うがいかがだろう。

キラキラのメッキが施された鏡胴。コストかかりすぎな気もする。

トリオターの名から察しが付くように、トリプレット構成のレンズである。
戦前製レンズの例に漏れずノンコーティング。絞りは16枚もある贅沢な作り。そして重厚感のある真鍮製の鏡胴は、オーバークオリティにも程があると嬉しくなってしまうほどの質感である。
8.5cm f4 という地味めなスペックではあるが、ここまで造り込みの良いレンズだと姿を眺めるだけでもときめくものがある。(この辺、やはり私は写真も好きだが"写真機好き"な向きなのだろう。)

このトリオター、同時代に発売されたレンズ『ゾナー 8.5cm f2』の廉価版として販売されたらしいが、それを感じさせない威厳ある佇まいである。

連結精度は凄まじく高い。また距離計連動精度も文句なしだ。

この記事をご覧の御仁には説明不要(笑)かと思われるが、Amedeo製アダプタを介することでライカMマウントで距離計連動可能となる。

距離計連動レンズ=ライカと決めつけていた私だったが…
このアダプタの導入がキッカケで、めでたくコンタックスマウントにまで守備範囲が広がったのであった。嗚呼恐ろしきクラシックカメラ&レンズの世界…。

ちなみに、私にツァイスの魅力を教えてくださった師匠であるtogorinさんのNoteにもレンズについて幾つか記事があり、作例と併せて読む毎にツァイスへの興味は募るばかりで…。
ツァイスレンズ購入にあたって、初手でゾナーではなく、トリオターを勧めて下さったtogorinさんのチョイスにも感服です。(笑) この場にて、改めてお礼申し上げます。


さて肝心の写りについて、色にじみや歪曲、ボケのうるささなど、オールドレンズでネガティブな要素となる諸収差はほとんど感じられない…。この写真を撮影したレンズが100年近く前に造られたものだという事実に、ただただ感嘆するばかりである。
ニュートラルな色表現、合焦部の解像度の高さ、ボケのスムーズさ、どれをとってもなんの不満もない。なお、作例は全て絞り開放のf4にて撮影。

M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
M10-D / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4

コントラストは低めに写ることが多く、ノンコートレンズ故に逆光耐性は弱い。しかし順光で撮ったときの発色の良さは目を見張る物がある。現代レンズと遜色ないといえば褒め過ぎだろうが、ここまでよく写るトリプレットレンズは他にあるだろうか?対抗馬になりうるのは戦後ライツのエルマー90mm f4のトリプレットタイプだろうが、なにせこちらは戦前の設計である。ツァイスが如何に優れた設計技術を持ち合わせていたのか、このレンズを使ってみてその片鱗を示されたような気がした…。

第二次世界大戦後の、ソ連、イギリス、アメリカによるドイツ侵攻、東西ドイツ分断の混迷に巻き込まれてしまった歴史のあるツァイス。各国が「ライカ」ではなく「ツァイス」の技術を奪い合ったのも、その技術力を手中に収めたかったからなのは言うまでもないだろう。
ツァイスの歴史を追うことも本当に楽しく、様々な文献を読むと、レンズの製造された時代背景にまで思いを馳せてしまう。

ライカの歴史と、ツァイスの歴史。
ライカとツァイスのプロダクトの違い。
両者それぞれに強い個性があり、1930年代ではカメラ産業において鎬を削る闘いを繰り広げた両者であったが、今私の手元で、ライカM型カメラにツァイスのレンズがついているのである。
その佇まいの美しさは筆舌に尽くしがたく、不思議な魔力を持った写真機として私を魅了し続けるのである。

…距離計連動レンズは、つくづく奥深い。
殊にコンタックス用距離型レンズの面白さに気づいてしまった私は、この先どんな風にレンズを楽しんでいくのだろう…自分でも楽しみである。(笑)

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