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五月の読書小記録


ひとつきに読んだ本のなかから3冊を選んで、力を抜いてみじかい感想を残していきます。
積極的なネタバレはしませんが、引用はするので未読の方はご自身の判断でどうぞ。


🎏五月の三冊


ブスの自信の持ち方/山崎ナオコーラ

「社会の中でも、家の中でも、ドッジボールのボールのように、『自信のなさを誰かに当てて、中央から追い出そう』という流れがある。消したり殺したりするのではなく、『にこにこしながら外野に出てくれ』と、ポンと当ててくる。(中略)でも、普通の顔の人の自信のなさを受け止めて、ブスがより自信をなくさなければならない、という流れは、かなりバカバカしい。
そういうわけで、自信のない人に、『あなたの自信のなさはどこから来ているのですか?』と尋ねてみたいのだ。
誰かから押しつけられていないですか?」

「ブス」をキーワードに、差別とは、性別とは、理想の社会とは、を考えていくエッセイ集。
電車に乗ればやれ脱毛、やれ二重整形、スマホを開けば「垢抜けメイク」、「10分踊るだけでくびれをゲット」……そんな社会に疲弊しつつ、そうした価値観から外れてなお自信満々でいられるような強さが私には無くて、夜な夜な奇妙なダイエットダンスを踊る日々だ。だけどよく考えたら私たち、個人が責任を負わされすぎでは?
この本のタイトルは自己啓発本っぽいけれどむしろ逆で、「社会」啓発本に近い気がする──変わらなきゃいけないのは私じゃなくて社会のほうなんじゃないですか!??ともりもり元気が湧いてくる本だった。
とりあえずわたくし今晩は食べたいもの食べますんで、社会君、代わりにそこで変な踊りを踊っといてくれますか?

踊る彼女のシルエット/柚月麻子

「でもさ、さっちゃん。考えてみてよ。可愛いのが正義で、可愛くなきゃ許されなくて、ソロアーティストまでは絶対いけない、あと一歩の歌とダンスだから、刹那だから、ス キャンダル一つで潰れる程度の人気で、グループ卒業後はほとんどが消えてしまうことをあらかじめ全員薄々わかっているから、いずれ消費され尽くすことがわかっているから、だからこそ、世界を変えるくらいすごい輝きがある女の子たちがいるのも、わかるでしょ?」

プライベートも仕事もがんばりたい、環境が変わっても友情をずっと保ちたい──理想はあっても、現実はなかなかハードだ。そんななかで「アイドル」や「推し」は、きれいなものだけ詰め込んだ「理想」の体現者である。だからこそ「推し」が「現実」に屈してしまったとき、受けるショックは計り知れない。
この物語の主人公はまさに親友を「推し」にしていて、パワフルでかっこいい彼女が突然社会規範に巻き取られ、婚活を始めることに困惑する。
女性と仕事、結婚、友情という問題への鮮やかな切り込みに加えて、物心ついたときからアイドルオタクだった私にとっては「アイドル」や「推すこと」についても深く考えさせられた小説だった。

ハッピーエンドに殺されない/牧村朝子

「“やらなきゃいけない気がするセックス”が、“一人前に見られたいセックス”が、一つでも世の中から減りますように。クリスマスイルミネーションが片づけられる年の瀬の東京で、そんなことを私は願っています。あなたを一人前にするのは、他の誰でもなく、あなた自身です。」

恋愛に関する社会規範をはじめ、「こうあるべき」みたいな思い込みと苦悩をばさばさ斬っていくエッセイ。
引用で挙げた「異性とセックスしないと一人前になれない気がする」といった悩みから、「職場の飲み会がいやすぎて吐きそうです」「働かざる者も、別に食ってよくね」などなど、それはもうばさばさと⚔🎍!
どんな人にとっても少し心が軽くなる本だと思う。
王子さまと結婚してめでたしめでたし、で終わってくれない人生だから、わたしのハッピーエンドはわたしが決めたいよなあ。

五月病になってる暇なんてないくらい予定が詰まっていた一ヶ月。
わりとがんばりたい趣味である短歌も、この一月に何首詠めたか考えるだけで、うっ、頭が……とはいえ辛かったかと聞かれると楽しかったがハナ差で勝つような毎日ではあったのでよかった。
だけどこういうとき、自分にとっての創作活動(今は短歌)を今後どういう位置に置くべきかですごく迷う。私ってやりたいことはいっぱいあるのにキャパシティーはシルバニアファミリーサイズだし、何より創作をやっていないときでもそこそこ幸せにやっていけちゃうことが、ありがたいけれど切なくも感じる。
どうしたらいいんでしょうね、どうなっていくんでしょうねー。


五月 勉強にふさわしくない色の飲みものたち



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