原因に辿り着くまでに多少回り道をしなければならない
ある朝目覚めたら右頬の上部に違和感があった。顔の一部の筋肉が動く際に軽い痛みが走るような感じで、寝ている間に訳の分からない姿勢になってどこかに押し付けでもしたのだろうと推測した。僕は特に表情豊かな人間でもないので生活にそれほど支障はなく、そのまま放っておいた。しかし次の日に起きると痛みが悪化していた。病院に行くのも何か違う気がしたので、僕はYouTubeで顔をほぐすマッサージの動画をみつけて実践してみた。本来それは眼精疲労に向けたものらしかった。血流が良くなったのか視神経が刺激されたのか、自覚すらしていなかった目の緊張が思いがけずほぐれた。しかし、頬の痛み自体は失くならなかった。不意にその出所がより正確に感じられるのに気付き、あっかんべーの要領で下瞼を捲ってみると小さな気泡が出来ていた。頬の筋肉痛ではなく、ものもらい(麦粒腫・霰粒腫)だったのである。
同じような経験が過去にもあった。その時は左耳の奥の方に痛みを感じた。日常的に攻撃的な音楽を大音量で聴くし耳掃除もわりに頻繁にするので、鼓膜だかどこかに傷が付いたか中耳炎にでもなったのだと思った。何日か様子を見ても改善されなかったので耳鼻科に行ったところ、どこにも全く異常がないと診察された。しかし痛み自体は確かにあったので、それが耳の奥ではなく頭痛であるという結論に勝手に至った。おそらく筋トレで高重量を扱っている際に発症したのだろう。調べてみると労作性頭痛とか可逆性脳血管攣縮症候群と呼ばれるものらしく、特に後者のおどろおどろしい響きにはちょっと不安になった。
自分が当事者の状況で問題をピンポイントで特定するのは難しい。側からみれば明らかな場合でも灯台下暗しということがあり、原因に辿り着くまでに多少回り道をしなければならないことは間々ある。
かつて勤めていた会社の新入社員研修で東京の寮に住んでいた頃、本社のとあるお偉いさんは最寄りのクリーニング屋を使わないように勧めていた。彼は過去にそこで二本のスラックスのジッパーを壊されたとのことだった。この話が新入社員全員の前で披露された時、「笑ってはいけない」という戦慄が走った。そのお偉いさんはどこかの相撲部屋に所属していると言われてもなんら不思議ではない体躯だったので、問題がクリーニング屋にないことは明らかだったからだ。
後に配属された支店の先輩にこのエピソードを話すと、そのお偉いさんは前年度の研修中にも早々に影でネタにされていたらしく、盗撮されて雑なコラ画像まで作られてグループラインで共有されていた。