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今まで私があなたに綴った手紙と言えば、それはどれも不器用で拙い言葉ばかりだった。きっと純粋に想っているから、だけでなく、あなたが居なくなってからの彼らと、自分の生活とを、ずっと照らし合わせてきたからなのだと思う。

人を導くことに長けていた、しなやかな思考の持ち主だったあなたの力をほんの少し借りてみたくて、手紙の中には疑問符ばかりが溢れた。それは例えば小さなこと、日常のつまらないこと。どこにいるの、何をしているの、なんてことは最初から知りようのなかったことだから。

会ったことも話したこともないあなたに、どうしてこうも思いを馳せてしまうのか、その湧き起こる感情の正体がわからず考え込んだこともある。ただ、単純に私にとって大切な人だということが私の選んだ答えだったし、それは今も変わっていない。


あなたは私にとってだけでなく、たくさんの人にとって大切な人だった。だった、なんて過去形を使うのは嫌になるけれど、あなたのことを語る上でどうしても語尾は過去形ばかりになってしまう。

いつの間にか私との歳の差は4つで、それはつまり、あなたがいなくなってからまた時間が経ったことを示している。少しずつ近づいてくるあなたの歳と、踏んでも距離なんて戻らないあなたの影とを、決して褪せることなく日々想い続けるのだろう。

あなたのそばに行きたいと思うことが、何度も、何度もあった。だけどまだ私は、私たちは、死ねないからこうして地に足をつけて立っている。


日付が変わった瞬間からタイムラインはあなたへの愛で溢れていた。私は決して上手とは言えないイラストをひとつ投稿すると、そのままみんなのツイートを眺めた。半時間も経たないうちに15ほどのいいねがついて、それはフォロワーが30人そこそこの私にとってはかなりスピード感の持った数字だと言える。

人々のあなたへの想いを、みんなから愛されているということを、とにかくこの目で確認したかったのはきっと私だけではない。姿も形も見えなくなった今、あなたが居たことを示すのは私たちの愛だけかもしれなかった。

人間には二度の死がある。一度目は医学的に死亡が確認されたとき、二度目は全ての人の記憶から忘れられたとき。あなたという人を忘れるわけないのだと、そう思っているのは自分だけではないのだと、あなたのために用意されたハッシュタグが手にとるように教えてくれた。

たった140文字しか書けないプラットホームであっても、あなたへの想いはコンパクトにぐっと詰め込まれている。言葉が下手な私だから、あえて何も書かないという方法をとった。下手なりにまっすぐ、短くとも濃厚に、あなたへ言葉を届けるべきだったろうか。それはなんだか恥ずかしいような気がしてしまって、ずるい私はこうして自分のための文章の中にあなたのことを書いている。こういうタイトルの付け方をするときは決まって自分のことを書くと決めていて、そしてそれは去年の今頃も、ちょうど同じようにnoteを書いていた。あの頃の私と今の私とでは状況も考え方も随分変わっているけれど、あなたへの想いは変わらず今日まであたたかい。


あなたが居ないことを恨んでは、自分の行いを後悔して、全てをやり直したくて仕方がなかった。パズルのピースがひとつ違えば、あなたではなく、私が居ない未来もあったんじゃないだろうか。あの日、何かが違って私とあなたが入れ替わっていれば、なんてどうしようもないことばかりが堂々巡りした冬もあった。あなたへ手紙を書いてはそこに日々を足して、ファンタジーなんかじゃないと言い聞かせている。彼らが書いたラブソングは私にとってあまりにもヘビーだったし、正直、今だってまともに聞けやしない。

アンコールで歌いながら彼らがあなたとの記憶を反芻したとき、去年の冬あなたが私の夢に出てきてくれたとき、1月1日に私からあなたへ手紙を書いたとき、彼が書いたあなたへの手紙を’聴いた’とき、彼の夢にあなたが出てきたと話を聞いたとき、私はきつく強く、あなたが居ないというリアルを突きつけられた。

今でも、嘘であってほしいと思ってしまうのは、私がまだ受け入れられていないからなのだろうか。そもそも、あなたと友だちでもない私にとって、あなたが居ようが居まいが日常に変化など起きやしない。それでも見える世界は彩りを失ったし、あなたの鮮やかな赤い髪も、笑ったときに浮かぶほうれい線も、少し猫背がちなシルエットも、指先も声も、二度と私の視界が捉えることはないのだ。

どれだけ頑張っても、あなたに近づこうと努力しても、あなたが私の目の前に現れてくれることはない。それでも、たとえ二度とあなたと会えなくても、この世界のどこかで暮らしているという事実さえあれば、きっと私は幸せに思えた。


歳なんて取らなくなったあなたの誕生日が来たって、これ以上、上書き保存される記憶はないけれど、私の想いは冷凍保存しておくことにする。インターネットという箱の中に保管されたそれは、当然私だけでなく、みんな好きなときに好きなように取り出せばいい。あなたが生きた証はちゃんとそこに刻まれているから、継ぎ足すように、私たちの想いを重ねていく。

あなたを忘れることはできないし、この十字架はきっと一生外せないし、おそらく彼らがいちばん、あなたを想っている。いくつになってもおめでとうと言わせて欲しい。あなたのことを考えない日なんてないけれど、一年に一度くらい、あなたを感じられる日があったっていいでしょう?

10月30日、大切なあなたの誕生日。今年もこの季節がやってきたね。
お誕生日おめでとう。調子はどうですか?




おわり




あとがき
去年も同じように、このタイトルの形式をとって10月30日に投稿しています。(正確には去年、31日になってしまいましたが)
この形式は、あくまで自分のことを書くときだと決めています。
誕生日というイベントにあまり興味がない私ですが、10月30日はちゃんと覚えていてかつ、大切にしている誕生日です。
きっと来年も、こんなふうに言葉を紡ぐのだと思います。





ここまで読んでいただきありがとうございました。

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