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感想「ブルーモーメント」原作:一穂ミチ/作画:ymz



こんなにも綺麗なんだったらもういっかって、おもうときはほんとうにあって、わたしの場合は白い朝だった。

あの瞬間がそこにあった。



「ブルーモーメント」 原作:一穂ミチ/作画:ymz

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めっきり電子書籍で買うことが増えた漫画ですが、この本は絶対に紙で買うと決めていたので強い意志で手に取った。大事な本になることは正直買う前からわかっていた。


何を隠そうわたしはymz先生の漫画をデビューコミックスの「さよなら、ヘロン」から変わらずずっとあいしているし、昨年初めて読んだ一穂ミチ先生の「スモールワールズ」の穏やかななまなましさを今でも覚えているからだ。


この本は、パンデミック下のバー「BLUE MOMENT」を舞台に描かれるBL漫画です。

一人で切り盛りするバーの店長である響くん

お店の常連客で映画配給会社に勤める直人くん

バーのオーナーであり響くんの恋人(愛人?)でもある征司さん

の三角関係が丁寧に丁寧にやさしく描かれたラブストーリー。


恐らく2020年の3月~6月頃が作中の時間で、本作が連載されていたのが2021年の6月~2022年の4月。

コミックス発売の今が2022年の7月なので、作中からは2年のタイムラグがあるのだが、わすれもしない、あの春の終わりはわたしの手のひらの上にあった。


嘘だ、ほんとはちょっと忘れかけていた。

毎日大変だし、苦しいことを塗り替えるさらに苦しいことだって起きるし、これからのことを考えていきたいし、あの塞ぐような寂しいような愛しいような日々なんて。

少しずつ過去のものになっていた。

それを、あまりにも鮮やかな青で思い出させ、さらにはもっと深く、自分の後ろ側の景色までを振り返らせてくれた。


つらくはない、けれど寂しかったことは覚えている。

そういう、本だった。



バーの店長の響くんは、パンデミック下で閑散としてきた自分のお店で、常連客だった直人くんと初めて深い関わりを持つようになります。

こんな時世じゃなかったら仲良くなることもなかったであろう直人くんのちょっとびっくりするような真っ直ぐさに惹かれながらも、かつての自分を救い、今もたおやかに甘えさせてくれる恋人の征司さんとの関係も大切に思っています。


ゆっくりと確実に変わっていく世界がぐらつくたびに、「会いたい」と思う相手は誰なのか、繰り返し自問していく。


今の自分とも、過去の自分とも、これからの自分とも。



「夕暮れが真っすぐ夜に下っていく短い時間が好き。子どもの頃は妙に寂しくて悲しかったけど、大人になると寂しさや悲しさも愛せるようになった」(本文より引用)


というモノローグが表わすように、このストーリーが内包するやわらかくてやさしいメッセージは作中のどこを切り取ってもあたたかく横たわっていて、じわじわと涙が滲むような感覚になるのは一穂先生の言葉のとてつもない魅力だなとおもいます。

あと「不要不急の別れ話をしよう」はマジでずるすぎる 頭抱える パンデミックラブストーリー最高峰の台詞過ぎる

巻末に収録されていたショートストーリーも読みやすくてどきどきして言葉がきれいですごく丁寧な愛を感じました……。


そして何より今のわたしたちにも通ずるご時世のお話なので、作品内の半分ほどは登場人物がマスクを着けているのですが、信じられる? あまりにも表情が豊か。

ymz先生が描かれる彼らの瞳がほんとうに生きていて、わかりやすくて、漫画でも目は口ほどにものを言うってここまで伝えられるのか、と溜め息がでました。

あとはほんとにオタクの感想なんだけどymz先生の描く木漏れ日がほんっっっっっっっと~~~~~~~~~~に好きなんだわたしは。

「ハッピーバースデー」や「ラブラド・レッセンス」でもずっとずっとこの世界に生きたいくらい大好きで、ちいさなコマの背景ひとつ取っても手のあたたかさを感じる線が羨ましくてしょうがない。食べちゃいたい。いやわたしのことを食べてほしい。お願いだからわたしをそこに連れてって。


あと食べるで思い出しましたがダイニングバーなので響くんが作ってくれる食べものがもう全部ほんとに美味しそう。そりゃ征司さんも直人くんもめろめろになっちゃいますわよ。


そういう日常のありふれたひとつの中に、信じられないくらい護りたいものや気付けば失ったものが見え隠れする。

伝えたいことはじんわりずっしり、でも軽やかでやわらかい絵ですっきり。

綺麗だったものを綺麗だったと言えるように。

苦しかったことを苦しかったと言えるように。


誰に? 最後にやっぱり会いたくなるひとに。



さいごに、

「どうしてこの人に惹かれるのか」、「どうしてこの人は寂しくなるのか」が過去も現在も合わせてすごくわかりやすい話だったとおもいます。もしかしたらみんなちょっとずつずるいのかもしれない、でも誰かを愛するってそういう側面が絶対にあるし、だから手放したくなくなる。

忘れたくないなとおもう。

この本を開くたびにわたしはあの春を思い出せるし、あの寂しさも苦しさも悲しさも美しさも抱きしめられる。


そんなことってある? たった1冊のBL漫画で。

こういう世界を繰り返し体験するからやめられないんだよな。

ほんとうにだいすき。




2022.07.14 あとり依和



(追記)
7/23 23:59までKindleで1話無料公開してたから読んで~~~~~~~!!!!!


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