見出し画像

あいのかたち

 一人旅に出かけた。
 宿泊した旅館には貸切露天風呂がいくつもあり、その一つに入って、ゆっくりと湯に浸かっていた時のこと。
 ふと見ると、湯から出していた手に、一匹の黒い虫が止まっていた。
 手の上をすいすいと歩いていくその虫に息を吹きかけるが、逃げていく気配はない。
 それを見て、ねごとのカロンという曲の歌詞を思い出した。

「形を変えてきみを見つめたい どんなにやさしい言葉忘れても 嗚呼」

 愕然とするような、愛情だと思う。
 この虫が、私をそんなふうに思ってくれている人の、形を変えた姿だったとしたら…と思いを馳せた。

 結局、その虫は、手を振って飛ばしてしまったが。
 こういう妄想はたのしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?