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雨の日には冷えたスプーンを一スポンジケーキは幾度となく一

※お立ち寄り時間…5分

「いってらっしゃい」
「おかえり」


物心ついた時から、当たり前にあった言葉だ。一人暮らしになっても、二人暮らしになっても、変わらない習慣だった。
(一人暮らしのときは、1人2役していた)

帰る場所があること
心の拠り所を作ること


当たり前すぎて、時々忘れてしまう。
当たり前すぎて、なかなか難しい季節もある。
ちゃんと帰る場所が、拠り所があること。


「行くなら帰りもあるんだからね」

感情が纏まらない時、よく散歩に行く。
そんな時、無口な夫はこの言葉を紡ぐ。

『無理し過ぎないでね』
『無理なときは、迎えに行くからね』

という優しさが、行間に配合されている。
だから、いつも安心して散歩に出かける。
帰り道が分からなくなっても、大丈夫だから。

暗いニュースを見るたびに、辛そうにしている人を見るたびに、ひしひしと感じる。

何だか行きっぱなしで帰ることが辛いのかなと。
失敗しにくい世の中になっているのかなあと。

私は、ストレスが頭の先からこぼれ落ちそうな時
立ち止まるか、進み続けるしかできなかった。
帰り道を思い出せなかった。


知り合いの娘さんが、仕事を辞めて
ずっと夢だった海外に行くらしい。

甘い言葉に、騙されない様にね。
お金は、分散させて持つんだよ。
飛行機は、なるべく昼間に着く便にしなね。

このお節介な気持ちが、心の拠り所にはなれなくても、暗闇に包まれた時に、キャンドルみたいな淡くて優しい助けになったら。


「たくさん失敗させればよかったなあ」

大好きな従姉妹のお姉ちゃんと育児の話をしていた際に、ポロッと出た言葉だった。

つい、心配な気持ちから、先回りして色々言っちゃう。気持ちよく暮らせる様に、先回りしてあれこれ先にしてしまう。
だって、なるべく辛い思いさせたくないから。

そうだとしても

忘れがちだけど、失敗したって
何回だってやり直しがきく
失敗だっていくらでもしていい

だって、帰る場所はあるんだから。
心の拠り所は、作れるんだから。

スポンジケーキって、なかなか膨らまない。
よく母と何度も作り直した。
ケーキクーラーなんかなかったから
ワインの空き瓶に突っ込んだりして。

結局、上手くいかなくて、スーパーで既存のスポンジケーキを買って、飾りつけだけした。

成功した(?)スポンジケーキの周りには
失敗したシワシワのスポンジケーキが
お行儀よくテーブルに整列していた。

それでも、母とオーブンを開けて
膨らまないねえ、と笑いながら作った時間は
シンプルに楽しかった。

シワシワのスポンジケーキは
私に失敗することの楽しさを教えてくれた。

そして、失敗することで、次は、どんな工夫をしようか、とワクワクしながら挑戦する。
結果、諦めたとしても、その過程で得た感情、感覚、匂い、光、音は、無駄にならない。

忘れがちだけど、失敗したって
何回だってやり直しがきく
失敗だっていくらでもしていい

だって、帰る場所はあるんだから。
心の拠り所は、作れるんだから。

失敗した過去の私が
未来の私を慰めてくれるのだから。

だから、惨めで下を向いた日でも
ただいま、と胸を張って帰っていいのだ。

「おかえり」
といつでも抱きしめる準備はできているんだから。

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