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ランデヴーは馬車に乗って

※お立ち寄り時間…5分

バスが止まった。
乗客の些細な口論が原因のようだ。世間は、先月に起きた未曾有の事態で、ピリピリしていた。
バスが急に止まったせいか、後ろにいた女の子の花束が折れてしまっていた。大事そうに持っていたから、随分と悲しそうだった。
声をかけてあげたい気持ちでいっぱいになった。
バスの運転手は、神経質そうに、早口でまくしたてていた。唇にクロワッサンの破片が付いていた。せっかちな人らしい。

外を見ると、まだ16区だった。

バスが止まった。
急に止まったから、腕の中でミモザの先が折れてしまっていた。楽しみにしていたアレンジメントだった。黄色の花々が、ちょうど前に乗っていた背の高い男性の肩へひらひらと落ちる。
謝ろうと声をかけようとすると、彼は、ほんの少し窺うように腕の中をみて悲しそうな顔をした。優しい人だと思った。

外を見ると、もう16区だった。

バスが止まった。
満月が綺麗な夜だった。今度は、エンジンの故障らしい。1日で二度もバスが止まるなんて、なんてついているのだろうと、体いっぱいにため息が出る。
降りようと、前を向くと、肩に黄色の花々が見えた。

「あっ…。」
「えっ…?」

思わず、くすくすと微笑みあう。そして、当たり前のように、お互いの名前を言い、握手をした。あたたかい手のひらが、じんわり冷えた心をゆっくりと解いてゆく。

「夜道は危ないですから。」

停留所ゼロ距離分。目と鼻の先の我が家までの数メートルの道。名前しか知らない彼との短いランデヴー。また、明日もバスが止まったらいい、なんて夢を見て。

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