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雨の日には冷えたスプーンを

※お立ち寄り時間…5分

ービンテージという花ー

「子どもを産むのは顔にタトゥーを入れるようなものだ。」

随分と前に見た映画のセリフだった気がする。タイトルは思い出せないが、漠然と「出産」は、どえらい事件なのだと衝撃を受けた。

先日、勤め先の同僚が妊娠したのを聞いて、自分でも驚くほど上手く笑えなかった。控えめに言っても、適切な人員配置だとは言い難い。ちょうど今春に異動になったばかりで、「おめでとう」よりも先に「どうしよう」が頭をよぎった。

昔、通りすがりの女性が

「全く、繁忙期に育休とか本当に勘弁して欲しい。」 

と、ため息をついていたのを耳にして

「なんて、非常識な」

と思ったことがあったけれど、ちょうどその「非常識な」考え方で、非常に悲しい気持ちになった。誰しもみんなお母さんのお腹の中から誕生したというのに。

思いめぐらすと、「赤ちゃんが欲しい」と思っていたことが大きい。2人も同時に抜けるのは不可能だ。少なくとも1年くらいは見送りだろう。タイミングは、ご縁であることは分かっている。
それでも、頭によぎったのは、「なんで私じゃなかったのかな」という言葉で「おめでとう」と素直に思えなかった。嫌な女になったようで、つい涙が滲む。うまく行かなければ…とも考えてしまっていた。消えてしまいたかった。

そんな気持ちを素直に年上の女性にぶつけると、思いがけない言葉が返ってきた。

「当たり前じゃない。徐々にで良いのよ。そうゆう類は。」

予想もしていなかった言葉に包まれて、心がふっと凪のように穏やかになっていくのが分かった。そうか、徐々にで良いのか。言い聞かせるように、小さくつぶやく。涙が出そうだった。救われた。

この世界には、名前のない感情が幾つもあって、唯一無二の「経験」を重ねてようやく答えに辿り着くのかもしれない。
自分で名前を見つけた感情は、きっと今後の人生の大きな支えになってくれるはずだ。

毎日、毎年思う。顔にシミや皺が増えていくのは、辛い。けれど、きっと悪いことばかりじゃないんだと思う。 笑い皺は、幸せの証とも言う。この感情で、いつか悩めるあの子の背中を優しくさすりたい。

さて、この辺でビンテージの花を咲かせるように、明日をまたむかえる準備を、着々と始めようと思う。

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