なぜ……ブルーグラスなのか?
どんなジャンルの音楽が好き? ……と問われたなら、当然ジャズやロックを上げる。
クラシックも詳しくはないが、抵抗なく楽しんでもいる。
まあ、演歌以外は、少しばかりギターの弾き語りもやっているので、和洋ポップスからアニソンまで全く偏見はない。
好きになった動機もそれぞれ思い当たる。祖父はクラシックファンだったし、それに類する仕事もしていたので、とりあえず安直に遺伝子と言っておく。
中学でジャズに目覚め……その後Nirvanaあたりからロックにも興味を持ったものである。
ちょっと気分が滅入っていて、なんの音楽も聞きたくたい時などは、Nirvanaでタイコを叩いていたデーブ・グロール率いるFoo Fightersのliveを聴くことにしている。すでにして、おじさんロッカーと言えるかもしれないが、問答無用にカッコいいのだ!
とにかく、魂を絞って歌うカート・コバーンとは真逆の、肉体を絞って歌う唱法は元気が出る。
そんな僕なのだが……なぜか、時に心に侵入してくる音楽がもう一つあるのだ。
そう。ウェスタン……特に「ブルーグラス」と言われる、西部劇にでも出てきそうなちょっと泥臭い音楽である。
はっきり言って、どんな歌手、バンドが? と言われても、ほとんど思い付かない。実際、レコードもCDも買ったことはないし、家族や友人に愛好家がいたわけでもない。
にも拘わらず、ふとした瞬間……知らず、即興的にウェスタン風のフレーズが口をつくのだ。もとより作曲など全く出来ない人間ではあるが、もしかしたらウェスタン風の曲なら作れるような気にもなってくる。
思えば、中学時代……耳ではジャズやポップスを聴いていたはずが、ギターを買ってもらった直後、なんとブルーグラスではお馴染のバンジョーが唐突に弾きたくなって、買ってもらったはず。
今思うに、首を捻るしかない。誰かの音楽を聞いて「かっこいい」と思ったわけでも、好きな女子がウェスタンファンだったわけでもない。
もし聴いたとすれば、映画のバックに流れていたくらいしか記憶がない。
確かに、バンジョーの響きには、透き通っていて、穢れを知らぬ、風の匂いが漂っていたようにも感じられるのだ。
とりあえず、教則本相手に、一年ほどは練習して……課題曲をスリーフィンガーでそれなりに引きこなせたのだが、その後……一人ではつまらなく……むしろジャズ熱がのさばって、あっさりとバンジョーは知り合いに売ってしまい、後年メインの楽器となるサックスのカタログをながめていたものであった。
もとより、その後の人生、いっさいブルーグラスを進んで聴いたこともなく、記憶の彼方に埋もれていたのだが、最近になって……全く偶然に耳にしたとあるブルーグラスバンドに、やけに親しみを覚え、よくは分からないが……心の故郷みたいな気分に浸ることがあった。
そのバンドの名は、the Petersens(ザ・ピーターセン)
日本でどの程度知名度があるのかは詳らかではないが、ミズリー州出身のブルーグラスバンドである。家族5人と友人で結成された、なんともアットホーム的な、……もちろん実力はあるのだが、どこか素人臭い部分もあって、癒される。
姉妹は揃って美人だし、誠実そうなお兄さん、寡黙な感じの友人、ベース担当のお母さんも味がある。
なにぶん、人畜無害といった音楽ではあるが……少なくとも僕は、このバンドを聴くと、ほっこりと、心が平和な気分になることは事実である。