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タラコスパ

 「タラコ」は江戸時代あたりから食されていたらしく、今では和食の定番だろう。

では……あるが、僕は子供時代から、飯のオカズとしてのタラコがあまり好きではなかった。なにも、タラコ自体が嫌いというより、なぜか飯と一緒に頬張るのが苦手だったのだ。だから、飯抜きで、タラコだけを食べるのならよしとしたらしい。
 ついては、おにぎりでもタラコの入った奴は今でも敬遠している。

 そんな僕だが、実はタラコスパだけは大好物なのだ。もちろん明太子スパもだ。

 あくまで、私見ではあるが「タラコ」という食材は、パスタと出会うことで本来の輝きが引き出されたと信じている。
 パサパサになりやすいタラコをバター等でネットリと混ぜて練り上げるところ、和食では絶対に味わえなかったハーモニーが、まさに国籍不明のアルカイック・スマイルとして幸福感ほもたらしてくれるのだ。しかも、洋に傾きそうな風味に海苔をトッピングする小憎らしさ!

 ただし、いくら考えても、初めてタラコスパを口にしたのがいつなのか……判然としないのだ。確かに、我が家ではパスタ自体が食卓に乗ることはめったになかったのだが……

 ちょっと調べてみたところ、1960年代、渋屋の「壁の穴」なるスパゲティー専門店が発祥らしい。客が持ち込んだキャビアで作ったのを、より安価な食材として「タラコ」に白羽の矢がたったという。


このセンス、お見事と言うしかない!

 要は、イタリアの伝統的なメニュー(魚卵を使ったスパはあるらしいが全く別物)ではなく、日本発の創作料理というわけだ。

もとより僕は「零度」のタラコスパがいかなるものかは知らないが、当然それなりの変遷はあったのだろう。
 実際のところ、初めて食べたのがいつか不明ということは、僕の中ですでに伝統的定番メニューとして立ち上がっていたということらしい。
 せいぜい思い出すのは、今でも流れている「ターラコ ターラコ……」というテレビから流れるCMソングとあって、殆どカレーライス並の存在感であった。

 その後、和の食材をパスタと合わせる試みはいろいろなされているらしい。ウニや塩鮭などはその代表だろう。
 和以外でも、中華の食材でもいけるかも知れない。

僕も、何かスパに合う食材はないかと考えてみたい……

 思うに、今まで掛け合わせることの発想だになかった新しい出会いとうものは、何も「食」の世界に限ったものでもないだろう。アートの、特にシュールレアリズムの世界では「Dépaysement(ディペイズマン)」なる発想がある。つまり、意想外の事物の、あり得ない出会いから生まれる強烈なインパクトのことだ。
 画家のキリコやマグリットなどは好きな画家であると同時に、僕の創作のヒントにもなってくれた。
 ふと、パスタの上にトイレットペーパーが乗っているけしきを思い浮かべてとまったが……

 さて……寄り道しながらも、パスタに合う……意外な食材をあれこれ思い描いてみたのだが、いかんせん「食」に於てはてんきり才がないらしい。

 糞っ! 尚も考える。 ……ここで頭に電球が点る!

 ゆでたパスタにオデンを乗せて、オリーブオイルを振りかけ、バジルを散らす。

 いけない。あちこちから、どこか嘲笑にも似た溜め息が聞こえてくる。

 やはりDépaysementの冒険は、専門の小説に任せた方がよさそうである。

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