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憎っくきネズミ

 夜……僕はアニメを見ながらも、手近にエアガンのベレッタを置いている。
なかなか命中こそしないが、図々しいネズミに一泡ふかせたいのだ。

 とにかく古い家なので、昔からネズミが住み着いている。多少なりとも遠慮して、オズオズと出没するというなら、多少は大目に見てやろうとも思うのだが、どうにも目に余る。

 最近の被害を列挙すると、ストックしておいたインスタント麺に穴を開けられ、布製のバッグに、バイト先で翌日食するパンをいれておいたのだが、翌朝、これが食い荒らされていたのだ。しかも、バッグの上部から忍び込むならまだしも……バッグの側面と底に穴を開け、そこから潜り込んだことが知れた。
 他にも、箱詰めの何十食分のインスタントの味噌汁……これは箱の上部に丸い穴を穿ち、具も味噌も食い散らかす……

 もとより、それ以前にもいろいろと被害を蒙っているので……流しの三角コーナーを含め、ネズミが食えそうなものは置いていないのだが……いったいあいつら、何を食っているのか?
 ……と思った途端、洗面所の石鹸が齧られた。

 思えば、だいぶ以前の話だが……家電が全く通じなくなり、はて? ……と思っていたのだが、なんとコードが食い破られていたのだ。

 いずれにしても、ネズミに対する憎悪が芽生えたのは小学生時代に遡る。
僕は当時、お祭でよく売っていた色んなカラーに染められたヒヨコが好きで、よく買って貰ったのだが……育て方が悪かったのか、なかなか大きくなるまで成長してくれないのだ。
 そんな折り、近所の人から、アヒルのヒナを頂戴したのだ。この子はお祭りのヒヨコと違って丈夫だから、しっかり育ててね……と言われたものだ。
 僕も子供ながら、気合いを入れて世話を焼いたのだが……なんとも張り合いがあるほど元気に、見る見ると大きくなってゆく。
 しかもアヒルの習性なのだろうか……親と勘違いして、家の中ながらチョコチョコと僕の後についてくる。生き物を本当に可愛い……と思ったのは、この時が初めてかも知れない。

 そんなある日、朝起きてみると、可愛いアヒルの姿が見えないのだ。
ちょっと記憶は不確かなのだが、たぶん大きめのザルみたいのを被せておいたはずが……これがひっくり返っている。
 もしかしたら自力で抜け出し……外に遊びに行ったのでは?
 勿論、僕もお袋も……行方不明のアヒルを探す。失念してしまったが……確か「ピーコちゃん」的な名前をつけていたので、その名を呼びながら……

 しかし、ピーコちゃんは見つからない、事故、誘拐……いろいろ思いを巡らしたが、行方は杳として知れない。
 
 そして、悲劇が訪れる。

 ピーコちゃん失踪から、1箇月ほど後のことである。

 小説を書いていた同居の叔父が、古本屋で漁ってきた書物を床の間を本棚代わりに山と積み上げていたのだが……久しぶりにこれを整理していた時。

 古本の奥から……ピーコちゃんの無惨な姿が発見されたのだ。

 そう。ピーコちゃんは嘴と羽毛を残し、その内臓の全てが食い荒らされていたのだ。
犯人は、ネズミ以外は考えられないだろう。

 僕は庭の隅に小さな墓をつくって、手を合わせた。

 子供のアイドルであるはずのミッキーマウスが大嫌いになったのも、これが切っ掛けだったようだ。

 今宵も僕はベレッタを手に……殺し屋の心で、悪魔を待ち受けるつもりである。

貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。