長坂道子

エッセイスト。チューリッヒ、ときどきパリ在住。 最新刊「アルプスでこぼこ合唱団」(KADOKAWA)発売になりました。 近著に『パリ妄想食堂』(角川文庫)『神話・フランス女』(小学館)『難民と生きる』(新日本出版社)『旅に出たナツメヤシ』(KADOKAWA)など。

長坂道子

エッセイスト。チューリッヒ、ときどきパリ在住。 最新刊「アルプスでこぼこ合唱団」(KADOKAWA)発売になりました。 近著に『パリ妄想食堂』(角川文庫)『神話・フランス女』(小学館)『難民と生きる』(新日本出版社)『旅に出たナツメヤシ』(KADOKAWA)など。

    最近の記事

    怠惰な旅人の覚え書き@ニューオルリンズ

    綿密な計画がそもそも大の苦手なので、勢い、旅は行き当たりばったりになる。しかも今回はコロナ到来以来、初めての遠出。勝手が分からず、勘も働かず、しかもその間、年もとっているので、気力体力、いずれも衰えている。 ニューオルリンズ、実は長年の憧れの地だった。アメリカには二年と二ヶ月暮らしたけれど、そして家族は私以外、全員、アメリカのパスポートを持っているけれど、ニューオルリンズをはじめ、南部は未踏の地。そしてそこは「ジャンバラヤ」やら「クレオール」やら「ミシシッピ」やら、旅心をむ

    スキ
    13
      • 他人事でない、この戦争

        2022年2月23日の朝、その日の未明にロシア軍がウクライナに攻撃をした、というニュースに触れた。その二時間後、今度はスイスの友人Tが「妻子を救い出すために、急遽、ポーランドへ飛ぶ。その後はレンタカーして陸路、国境を超え、キエフに滞在している妻と5歳の娘を連れ帰る」というメッセージを残して、すでに出発したことを知った。 Tと、その妻、そして娘も含め、その家族とは、家族ぐるみの付き合いだった。「だった」と過去形で書いたのは、夫のTが、とあるパーソナルな出来事をきっかけに、陰謀

        スキ
        86
        • 「アルプスでこぼこ合唱団」

          新刊を上梓しました。 縁あって、というか成り行きで、スイスに住むようになってから早いもので二十年余り。なのに単行本という形でスイスについて書くのは、実はこれが初めてです。その理由は本書をお読みいただければお分かりになると思います。 合唱という営みのあれこれについて綴りながら、これはまた、一人の頼りなく、情けない「透明人間」が、不器用に、時にみじめったらしく、時に健気にそれでもなんとか自分の居場所を築いていこうともがく話でもあります。 ブラックアンドホワイトも勧善懲悪もハ

          スキ
          24
          • 「見かけ」フィルター

            今日はユダヤ教のニューイヤー(ロシュ・ハシャナ)、だそうで、親しくしているご家族からお祝いの宴に招かれた。フルーツかハチミツか花を手土産にするという習慣があると聞き、じゃあ美味しいハチミツ買っていこう・・・そう思い立って、パリのムフタール地区にあるハチミツ屋さんへ。 壁一面を埋め尽くすハチミツの瓶たちの中から、ホストのマダムへはチュニジアのアーモンドの花、その二人の息子さんたち(といっても私と同世代くらい)には南仏のラベンダーとコルシカ島のアスフォデルの花のハチミツをそれぞ

            スキ
            27
            • 「ワクチン打つ、打たない?」

              スイスのワクチン接種率は8月31日時点で57.88パーセント(一回接種済み)。思ったより低い。二回接種完了はさらに低く、51.76パーセント。 ざっくりと、二人に一人ちょっとくらいしかワクチン接種をしていない、というのがこの国の現実。ワクチンは十分に供給されており、接種会場はもう何週間もガラ空き、ということをみれば、これから劇的に接種率が上がるとも思えない。疾患、アレルギー、その他の理由で「接種したくてもできない人」を除く大半は、「積極的な意思で接種しないことを選び取った人

              スキ
              29
              • 大いに気に入った

                東京やパリやニューヨークはもちろん、テルアビブやベイルートやハノイなどと比較しても、私の暮らす街チューリッヒは、外食の楽しみは格段に低いというのが残念ながら正直なところ。 海もなく、豊穣な平地に乏しい、といった自然条件に加え、ここの人たち、基本的に食い意地が張ってない。享楽を求める先に、食べる楽しみというのが上位入賞してこない。そうした文化的な背景は絶対にあると思う。 味付けが妙にしょっからいところが多く、私の嫌いなグルタミン酸がいろんなものにたっぷり入っているのも個人的

                スキ
                32
                • 地球のこっちとあっちにたまたま生まれ落ちて

                  昇天祭の休日と週末に挟まれた金曜日。天気予報では雨のはずが、ぽっかりと晴れた。思い立って朝市に出かけ、その近所に住むコンゴからの友人Aさんに「コーヒーでも飲まない?」と声をかけてみた。長引くコロナ下のスイスで飲食店は屋外のみ営業が許されているので、晴れないと外でコーヒー一杯飲めない。雨天続きの5月。こんな機会はまたいつ訪れるとも限らない、思い立ったが吉日、カルペディエムである。 コンゴからの友人、と書いたけれど、そしてその思いに偽りはないけれど、彼女はまた、コンゴからの難民

                  スキ
                  29
                  • 2021年、初めての買い物

                    英国の大学の最終学年(三年目)に在籍する娘が、コロナ措置のため大学に戻れず、スイスの家でオンライン授業を受けてきた冬学期もいよいよ終了。あとはイースター休暇を挟んでやはりオンラインで試験、卒論提出と怒涛月間を経て、誰にも会わないままのあっけない卒業になる段取り。大学生活「最後の授業」が終わったその日、彼女なりにこみ上げる思いもあったのだろう、「久しぶりに街にでも行かない?」と母の私を誘う。街、といっても昨年末より飲食店はすべて閉まったままだけれど、少し前から小売店は営業再開。

                    スキ
                    19
                    • 翻訳は誰のもの?

                      バイデン大統領の就任式でアマンダ・ゴーマンさんが朗読した自作の詩「The Hill We Climb」の翻訳を巡り、いろいろなニュースや議論が飛び込んでくる。 最初はオランダからの一報。 ほぼ、本決まりだった翻訳候補者が、「その肌の色がふさわしくない」という理由で批判の嵐に合い、結局彼女は翻訳を辞退した。昨年、インターナショナル・ブッカー賞を史上最年少(29歳)で受賞したマリエケ・ルカス・リーネフェルトさんだ。リーネフェルトさんは、ジェンダー平等や精神疾患等についても率直

                      スキ
                      38
                      • Lebenszeichen(生きているしるし、消息)

                        コーヒーを外で飲まなくなってもう何ヶ月になるのだろうか。あまりにもその時間が長くなりすぎて、「ちょっとコーヒーでも」という思いつき自体をほぼ忘れてしまった気がする。そんな私に「まあそう言わず、寄っておいきよ」と声をかけてくれたのは、歩道の真ん中に置かれたこの看板。黒板に白いマーカーで綴られた文字はちょっと横長で直立不動な感じ。ドイツ語圏スイスでは非常にスタンダードな手書き文字のスタイルだ。曰く、 コーヒーがあるところには、希望もある。 そして、ここにはいつもコーヒー、あり

                        スキ
                        26
                        • 開かない扉

                          マイナス10度くらいの寒さが続くチューリッヒ。相変わらず、店々は閉まっているし、人との集まりも確か5人以上は原則、禁止の日々。その上、急な坂道に四方を取り囲まれるところに住んでいるため、あちこち凍って滑りやすく、うかうか散歩にも出られない。ほぼ引きこもり状態で生きているが、にもかかわらず、花粉症は律儀にやってくる。雪空の下、凍りついた木々の一体どこから花粉が飛び出してきて締め切った家の中にまで侵入してくるのか。窓の外の雪景色を眺める目が痒くてたまらない。 2019年の秋頃だ

                          スキ
                          19
                          • スイスでコロナ越冬

                            コロナ騒ぎ勃発以来、それまで目に見えていなかった国境が可視化されることを痛感する事例が相次いだ。パスポートなしで楽々と越えていた欧州国家間の国境が、文字どおり「閉じた」昨年三月。そしてその後のウィルス対策においてもここまで国ごとの施策が異なるか、ということを思い知らされた数ヶ月。マスク着用義務の有無、どのタイプの店を閉めるのかという判断、不要不急に含まれるもの、含まれないもの、隔離義務を課す相手国や地域のリスト、そこだけは譲れない聖域的な産業分野の違い、教育機関はどうするのか

                            スキ
                            14
                            • デュレンマットという居場所

                              ベートーヴェン生誕250年の陰で小さくひっそりと祝われているもう一つの節目がある。それはスイスの作家・戯曲家、フリードリッヒ・デュレンマットの生誕100年。 ほとんど口外したことがないが、実は私、デュレンマットの大ファンである。邦訳はごくわずかしかない上に、その大半はかなり前のもの。だから私にとってもデュレンマットは長らく「名前は知ってるけど一度も読んだことのない作家」の一人に過ぎなかった。それがひょんなきっかけで彼が亡くなる直前に行った講演記録に触れ、「呼ばれた」感があま

                              スキ
                              14
                              • シリア難民の今

                                師走のコーヒー一杯から2017年の春、『難民と生きる』という本を出した。欧州のいわゆる「難民危機(2015年)」からほどない時期、ベルリンをはじめ、いくつかのドイツの町を訪れ、そこで難民として暮らす人々と彼らを助ける人々の素顔に取材した本。人はなぜ手を差し伸べるのか、という問いへの答えを探して彷徨ったたささやかなルポルタージュだった。当時の私の関心の中心は「手を差し伸べる側(つまりドイツの市民たち)」だったが、もちろん命からがら祖国を逃れてきた人たちにもたくさん会って話を聞い

                                スキ
                                12
                                • 「感染者叩き」は伝統なのか、文化なのか、一時的現象なのか(コロナ第二波の欧州より②)

                                  コロナ第二波の中に生きている欧州組の私たち。そんな中の一人、一回り年下の友人Sさんに「もうこれが当面最後になるかもねえ」と言いながら街中の店で会った時(かれこれ二週間ほど前)。 「日本に行かないの?」 毎年、少なくとも2回くらい日本のご実家に里帰りしているSさんにそう尋ねたところ、 「ありえません」ときっぱり。 「この感覚、分かっていただけるかなあ。何しろうちは田舎でしょう。今、私が子連れで母のところに帰るとするじゃないですか。たちまち村じゅうに私たちの帰国が知れ渡り

                                  スキ
                                  28
                                  • ♯ペンシルヴァニア2020

                                    アメリカの大統領選・最終投票日からバイデン氏の勝利が確定するまでの4日間、普段滅多に見ないテレビをほぼ付けっ放しで暮らすという異常事態が続いた。選挙そのものについてはたくさんの方が様々な論評をされており、今さら私から付け加えることも特にない。 ただ一つ、極めて個人的なことを少しだけ。 ウィスコンシン、ミシガン、と、前回、トランプ候補にひっくり返された伝統的な民主党基盤の州が、今回、また逆転して青になったあたりから、人々の注目が俄然、ペンシルヴァニア州に集まり始めた。まだ結

                                    スキ
                                    15