見出し画像

ズルい女

彼氏と楽しくデートして、じゃあバイバイと駅で別れてから、家まで歩いてたったの10分だった。一人で夜道を歩き始めて5分足らずで、昨日観た映画のワンシーンを思い出した。

もう、無理だと思う。僕たちもう終わったんだよ。

二股をして、四年間付き合った優しい彼氏と別れた女が、今度は二股相手に二股され全て失い、元彼に復縁を迫る。
お願いだから私を一人にしないで、失ったものの大切さにやっと気づいたの、と。
涙ながらに訴える女に、男は厳しい眼をしてこう告げ、新しい女の元へ帰って行く。


君の涙を初めて見たよ。

彼は相変わらず一途で優しい男だから、元カノと浮気などしないのだ。

思い出したシーンは悲しいシーンだが、別に私は悲しくはない。私には不満なんてないし、仲の良い彼氏だっている。
それなのに。
私、おかしい。
何も悲しいことなんてないのに、涙が出そう。

彼は家に着いたら電話をくれると言っていたのだから、小一時間くらい一人で待っていれば良いものを、私は我慢できずに電話をかけてしまった。あろうことか、元彼に。
元彼は、まるで、あの映画の男のように優しかった。他の誰よりも私を甘やかしてくれた。眠れなければ、私が眠るまで電話口で話してくれた。朝、起きれないと言うとモーニングコールをしてくれて、毎度電話をすれば私より先に切ることはない。私の為を思って、もう電話はしちゃダメだと言ってくれた。

二人から一人になった瞬間の寂しさは恐ろしいものだ。でも、みんなその寂しさを抱えて生きている。
それどころか、今の私の寂しさは、彼氏彼女との別れの寂しさではなく、ただ単にどの瞬間も一人になりたくないだけの蟻のように小さな寂しさじゃないか。一人で帰りたくない、一人で寝たくない、起きたくない、バイバイしたくない。
私はそれにさえも耐えられていない。
ワガママすぎる。子供だと思う。

元彼に電話をしながら、自分は何をしているのかと我ながら思うが、いざ、「俺じゃなくて彼氏に電話しろよ、もう切るよ」と言われると、そうだよねと言いつつ涙が出てしまう。
「何の不満もないの、なのに帰り一人で歩いてたら涙が出ちゃうの。私、何も出来ない。一人で帰ることも出来なくなっちゃった」
そんなことを言って、自分でも驚くくらいに、子供のように号泣してしまう。
そんなに泣かなくてはならない理由などどこにあるのか。自分の無力さに打ちひしがれるヒロインなら、私のように自ら無力になることを選んでなどいない。どうしてこんなに、声を出してまで泣いているんだろう。涙が止まらず、しゃくり上げているんだろう。私にだって分からなかった。

私は結局朝まで元彼と電話を繋げていた。
電話すると言った彼氏から電話は来なかった。
朝までぐっすり眠り、眼を覚ますとまた誰かに会いたいと思った。
元彼でも、今の彼氏でも、もうどっちでも良かった。

#読み物 #エッセイ #散文 #女 #ずるい #フィクション #小説 #駄文 #恋愛

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?