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【小説】ハラスメントは私の味方なのだ。

私が悪いんじゃない。

私が悪いんじゃない。私は全然悪くない。

会社に気に食わない女がいる。アイドルのように人気者で誰からも好かれて残念ながら仕事もできる。私より後に入ってきてアルバイトだったくせにとんとん拍子に正社員になって気づけば私は追い越されてしまった。

私が悪いんじゃない。上司に恵まれなくて評価してもらえずたまたま運が悪かっただけ。そして彼女は、たまたま運が良かっただけなのに気づけば評価は雲泥の差。

私が悪いんじゃないんだ。とにかく気に食わないだけだ。彼女さえいなければ私はこの社内でうまくやれるのに彼女と比べられるから私の評価はあがらないのだからと思うと彼女が視野に入るだけで私のストレスは大きくなる。

彼女さえいなくなれば私はきっとこんなストレスに悩まされることはない。彼女さえいなければ今私はもっと評価されていたに違いないのだから。私が悪いんじゃなくて彼女が悪いのだ。

そうして私は、彼女をここから追い出すことにした。どんな手を使っても追い出して見せよう。彼女が発する言葉一つため息ひとつを全てがとにかく目障りなのだ。彼女がここにいる以上は、私はずっと幸せになれないそう思うだけで私の胸の内はメラメラと燃えるばかりだ

彼女を追いだすために

彼女を追いだすために私ができる事。それは私が被害者で彼女がいることによって私が傷を負ってるという事実がある事だ。今の社会は運のいいことに私にとって好都合なのだ。なぜならハラスメントという正義の言葉があるから。私がハラスメントを受けたと感じれば、彼女がハラスメントをしたという意識がなくても成立される。ハラスメントは私にとって魔法の言葉。そのためには上司を味方につけて自分は頑張ってることをアピールしつつしかるべき時にしかるべき内容でハラスメントを訴えればいいのだから。

そう思うとワクワクしてきた。使命感とでもいうのだろうかやる気がみなぎって今まで霧の中にあった私の将来が突然キラキラ光るように感じてきた。彼女のいない社内を考えるだけで私の心の霧はどんどん晴れていった。

そして私は着々とその準備をはじめた。
①上司にやる気を見せる
出来るだけ上司には、私の味方になってもらわないといけない。そのためには私の頑張りを謙虚に豆に伝えていかなければならない。
②メモは明確にそして簡潔にたくさんとる
小さなことでも自分が傷ついたと思ったら日付と時間とメモを取る
③周りの人も味方につける
お誕生日やお礼などに何かプレゼントすることは忘れないようにする

そしてしかるべき時が来たら私は一気に打って出る。その時には外堀はすでに固められ私の訴えは認められるはずなのだ。
失敗は許されない。確実に一発でしとめなければならない。そのためには、出来るだけ多くの材料と努力を必要とするがそれは私がこの会社の中で居心地よく過ごす為には必要な事なのだ。

『いいじゃないですか。会社から必要とされてるんですよ。世の中には必要とされない人もいるしそういうひとに限って会社にしがみつくしかないんですから…そうやってかんがえるとしがみつかなくてもいいなんてすごいですよ』
と彼女が電話で誰かにしゃべってるのを聞いてメモをする。
10/4 10:35 電話にて大きな声でこれ見よがしに私に聞こえるように必要とされない人はしがみつくしかないといわれた

『うん。わかります。その人どうなんですかね。何してるんですか?何もしてないのに文句ばかり言って…うちもそうですけどそういう人っていますよね。わかります。』まだだれかと電話口で私の悪口を言ってる。
10/6 11:25 他の拠点の人と私の悪口ばかりを聞こえよがしに言ってる。

『さっき話した話案の定だったよね…ここで出てくるとは思わなかったわ。』そう係長と会議の後に話してるのを聞く
10/15 16:45 係長と私の会議の発言で私に対して文句を言ってる
そして支店長と係長にメールを送る
ー先ほどは差し出がましい話をしてすみません。みんなにとって良かれ場と思ったのですがそう思わない人もいるかなと後から思い返し反省してます。

彼女を観察するようになって気づいたのだが誰かによく長くメールを打ってるのを見る。きっとあのメールにも私の悪口が書いてるに違いない。もしかしたら支店長や係長におくられてるのかもしれない。そう思うと腹立たしくなってくる

お昼ご飯の会話は出来るだけ盗み聞ぎするようにした。みんなでわたしの悪口を言ってるに違いない。そしてそれもすべてメモにのこしていこう。彼女のお昼の時間は私の詮索の時間へとかわった。
『それって仕事何してくれてるの?担当として下に押し付けてるだけってこと?ひどいわね。本当だったら自分から進んでしないといけないのになにもしてないってことでしょ。それでいいんなら私もしたくないってなるよね。』ほらね。人の話を聞いて偉そうに私の悪口をいってる。
10/25 11:45 昼食中に私の悪口を言ってるのを聞いた。批判されてて傷ついた。

毎日増えていくメモ。これがたくさんたまればその分私に優位になる。彼女を追いだすためにたくさんの時間をかけて作る証拠。それが後から私の味方になる。そう思うとメモがたまるのがワクワクして仕方なかった。

支店長や係長にやる気やお礼のメールを送るのも忘れない。
ー色々ご指導いただいてありがとうございます。先ほどの会議でここのところが分からなかったので教えて下さい。
ー今日もお疲れ様でした。わからないことが多いですが会議に出るようになってわからないなりにやる気がたくさん出てきました。これからも頑張ります。
ー昨日はお誕生日おめでとうございます。つまらないものですがスタバのコーヒー疲れた時に飲んでください
ーバレンタインデーなので小さいですがチョコ用意しました。いつもごいろいろありがとうございます

これもきっと彼女を追いだすためには大切な作業だ。

わけのわからない仕事を後輩に振られイライラした。その仕事は別の後輩に全部振って私は一生懸命上司に書くメールを書く。私に仕事を指示すること自体気に食わないのよ。本当に誰しもに対してイライラする。全て彼女がいるから。もしかしたら彼女がそうするよう指示してるのかもしれない。

そうして私は少しづつ少しづつあの女を追い出すために準備を進める。気付けばもう毎日彼女ばかりをみてはイライラしていた。私の仕事は将来の自分の為に彼女を観察すること。私の手元に増えるたくさんのメモ。そうして毎日をすごしていた。

そしてある日事件が起こった。私の絶好のチャンスである。


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